アカデミー賞の授賞式で感極まるミッシェル・ヨー(写真:REX/アフロ)

(山中 俊之:著述家/国際公共政策博士)

 作品賞をはじめ米アカデミー賞の7部門を制した「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(エブエブ)」。これまでの作品賞を受賞した作品の中で、最も中国系・アジア系が目立った作品といっていい。

※以下、作品のネタバレを含みますのでご注意ください

 まだご覧になっていない方向けに、ごく簡単に概要をお話すると、中国からの移民である女性(エブリン)が、ちょっとしたことがきっかけで、他の宇宙で生きている「自分」を交わることができるようになる。夫や娘、父親も様々な形で、他の宇宙においては存在しており、混乱に次ぐ混乱が現出するが、最後は家族のありがたさが分かる……という展開だ。

 主演女優賞を受賞したミッシェル・ヨーは、中国系マレーシア人。英国でも教育を受けたマレーシアを代表する女優は、英語も中国語も流暢である。60歳にしてアクションを含む演技も見事というほかない。アジア系で初めての主演女優賞となった(主演男優賞を含めアジア系の主演俳優賞の受賞は初)。

エブエブのワンシーン(写真:Everett Collection/アフロ)

 よくあるハリウッド映画のように、中国系移民といっても映画の中では英語で話すのだろうと思っていた。が、全然違った。冒頭から中国語が割と目立った(全体としては英語がやはり多い)。ほぼ英語のみの世界であった米国映画も多言語化が進んでいると感じた。

 国際政治の世界では米中対立が深刻化する中、中国系俳優が活躍する映画に最高峰の栄誉を与えた米国アカデミー賞。世界における中国の影響度の拡大を所与のものとして、米国社会が受け入れたかのように感じた。

 中国の影響度拡大は、中国の積極外交にも見て取れる。