多くの人に支持される作品はリメイクしてもまた、時代、国を超えて、愛される。聴覚障害者の家族の間で、ただ一人の健聴者である少女を描き、昨年、アカデミー賞作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』はフランス映画『エール!』(2014年)の英語リメイクだった。今年のアカデミー賞で、ビル・ナイが主演男優賞にノミネートされている『生きる LIVING』(3月31日公開)は黒澤明の不朽の名作『生きる』(1952年)を英国でリメイクした作品である。

『フィラデルフィア』(1994年)、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1995年)で2度もアカデミー賞主演男優賞を受賞した、ハリウッドを代表する名優トム・ハンクスの主演作『オットーという男』は日本でもヒットしたスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のハリウッド・リメイク版である。

いつも仏頂面の堅物

 ハンクスは主人公である、近所で煙たがられている偏屈な老人、オットーを演じている。「あのトム・ハンクスが老人役!」と衝撃を受けるが、世界中から「いい人」として認識されている彼が「町一番の嫌われ者」を演じるというのもなんとも斬新に思える。2017年のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『幸せなひとりぼっち』に魅せられたトム自身がプロデューサーも務めている。

 いつもご機嫌斜めで挨拶をされても仏頂面のオットー。毎日、近所をパトロールしては規則を守らない人に説教をして回る。曲がったことが大嫌いな堅物。彼が退職することになり、同僚たちは正直、ほっとしていた。