元イングランド代表のゲーリー・リネカー(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

前代未聞、看板サッカー番組を4分の1に短縮

[ロンドン]英国の週末はサッカーに始まってサッカーに終わる。

 有料放送でイングランド・プレミアリーグの試合を観戦して夜は英BBC放送のサッカー番組『マッチ・オブ・ザ・デイ(MOTD)』を視る。翌朝イングリッシュ・ブレックファーストを食べながら「タブロイド」と呼ばれる大衆紙で結果を確認する。

 しかし3月11日、そんな風景が一変した。

 英仏海峡を密航してくる不法入国者の小型ボートを阻止する政府法案をツイッターで「1930年代の(ナチス)ドイツ」にたとえた元イングランド代表主将で1986年サッカーW杯メキシコ大会得点王ゲーリー・リネカーがMOTDの司会者を降板させられたことを発端に元イングランド代表アラン・シアラー、イアン・ライトらが出演を拒否し、BBCはカオスに陥った。

 リネカー、シアラー、ライトの3人が出演して80分の放送を予定していたMOTDは20分に短縮され、試合のダイジェストだけが流された。サッカー番組『フットボール・フォーカス』『ファイナル・スコア』なども元イングランド代表アレックス・スコット(女子)や司会者のボイコットで別番組の再放送に切り替えられた。BBCはまさに崩壊の危機に瀕した。

 Jリーグ・名古屋グランパスでもプレーしたリネカーは16年間の現役生活でレッドカードやイエローカードを一度ももらったことがない。1990年には国際サッカー連盟(FIFA)のフェアプレー賞を受けている。フェアが売り物のリネカーのツイートは文字通り「ラクダ(BBC)の背骨を折る最後の藁」になる恐れがある。

1990年FIFAワールドカップ・イタリア大会の準々決勝のカメルーン戦で、それぞれゴールを決め勝利に貢献したリネカー(右)とデビッド・プラット(写真:Action Images/アフロ)