事故直後に撮影された現場の状況はあまりに凄惨でした。原形をとどめないほど大きく破損し、なぎ倒された5台のバイク。フロント部分を大破させ、対向車線上に停止しているワンボックスカー。唖然とした表情で路面に座り込む禎三さんの仲間たちも写っています。

緒方禎三さんが亡くなった事故の現場写真
拡大画像表示
緒方禎三さんが亡くなった事故の現場写真
拡大画像表示

「現場はほぼ直線に見通しの良い道路です。この道で、昼間に複数のバイクと車が連なって走っていれば、遠方からでもかなり目立つはずなのに、なぜそれに気づかず、150mも対向車線を走り続けたのか、不思議でなりませんでした」(節男さん)

 加害者の男(当時61)が徹夜でドライブをしていたという事実を節男さんが知ったのは、事故から数カ月後、裁判が始まってからのことでした。

「加害者は事故前日の朝5時に起床して終日仕事をし、その夜、レンタカーを借りて家族ら7名で出発。徹夜で車を走らせて乗鞍岳へ向かい、日の出を見て戻る途中、今回の事故を起こしていました。約32時間、まともな睡眠を取らずに行動していたのです。それを知ったとき、私は居眠り運転が原因ではないかと思いました」

 しかし、裁判官は「居眠り」を認めず事故の原因を「わき見」とし、禁固2年執行猶予5年の判決を下しました。

「わき見」と「居眠り」の危険性の違い

 判決文にはこう記されていました。

『被告人の一方的過失による事案とはいえ、その過失内容はわき見という前方不注意であり、酒気帯びや高速度走行等の反規範的な態様によるものではないこと(中略)これら諸事情を総合すると、本件においては被告人を実刑に処すべきであるとまで断ずることはできない』(名古屋地方裁判所岡崎支部・岩井隆義裁判官)

 節男さんは語ります。

「量刑にももちろん不満はありますが、事故原因を『わき見運転』のみに限定されたことに対しては疑問を感じざるを得ませんでした。仮にわき見だとして、対向してくる6台ものバイクと1台の車を見落とし、150mも対向車線を走行し続けられるでしょうか……。居眠りは一時的に意識を失っているのと同じです。過労運転は、飲酒運転と同様、いや、それ以上に、非常に危険な状況を生む可能性があります。その危険性を、国はもっと国民に正しく伝え、再発防止策につなげていくことが重要ではないでしょうか」

『居眠り』か、それとも『わき見』か……。

 筆者のもとには、今も同様の疑問を抱く交通事故の被害者遺族から、多数の事案が寄せられています。いずれも、逆走や追突など被害者にとっては不可避の事故で、その上ノーブレーキで衝突されるため、重大な結果となるケースが大半です。

 岩瀬被告の第3回公判(結審)は3月8日午後4時から京都地裁で開かれ、情状証人が法廷に立つ予定です。

 事故直後の供述の変遷がどこまで認められるのか、注目したいと思います。