この問題について、24年間追及を続けている医師の緒方節男さんは言います。
「たとえばアメリカでは、死亡事故のうち『不眠・疲労』が原因となって起こった事故が57%に上るという報告があります。一方、日本の場合、死亡事故における過労運転(居眠り含む)の割合は1%にも満たないのが現状です。この極端な差は、いったいどう考えればよいのでしょう。『過労運転』を判定する明確な基準はなく、立証も非常に難しいことから、日本では、『居眠り』が疑われる多くの事故が、結果的に『わき見』(安全運転義務違反)として軽く処理されているのではないかと思うのです」
約150m逆走。5台のバイクをなぎ倒して……
実は緒方さんも、センターラインオーバーの車に我が子の命を奪われた遺族です。
1999年7月31日、長野県木曽町の国道19号線をバイクでツーリング中だった息子の禎三さん(当時31)は、対向車線を越えて逆走してきたワンボックスカーに正面衝突され、木曽川に転落、首の骨を折って死亡しました。一緒に走っていた仲間3人も重傷を負いました。
搬送先の病院に駆け付けたときの状況を、節男さんは振り返ります。
「レントゲン写真を確認すると、頸髄損傷のほかに、頭蓋底骨折と脳挫傷が認められ、一目見て即死の状態であったことがわかりました。遺体の状態もくまなく調べましたが、頭部のほか両手両足にも開放骨折を負っており、全身に大きなダメージを受けていることが分かりました」
下記の図は、外科医である節男さんが、禎三さんの遺体の損傷をメモしたものです。
禎三さんはこの年の3月に医学部を卒業し、5月には医師国家試験にも合格。麻酔科医として就職先の病院も決まっていたといいます。