(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
韓国の尹錫悦大統領の強い意志で解決に向けて動き出しはじめた「徴用工問題」だが、ここ数日の動きを見ていると、失速感が出てきているようにも映る。1月30日には、外務省アジア大洋州局長と韓国外交部アジア太平洋局長による「局長協議」が開かれたが、韓国側が日本企業の資金拠出や日本の謝罪を求めていることもあり、双方の主張の距離は縮まらなかったと報じられている。
だが、解決に向けたゴールはかなり近づいているというのが筆者の見立てだ。早ければこの2月中にも、日韓首脳会談が開かれ決着する可能性もある。
広島G7前の日韓首脳会談実現が必須条件
では今後、解決策の模索はどのように進められるのか。日韓両国の報道をまとめると、以下のようなタイミングが大きな節目になりそうだ。
・2月21~23日:韓国で元徴用工約400人の意見を聞く「20時間リレー討論会」が開催
・3月1日(3・1節、韓国の独立運動記念日):この前後に尹錫悦大統領が来日し、日韓首脳会談開催か
5月19~21日に予定されている広島G7首脳会談では北朝鮮問題を扱うことは間違いがない。北朝鮮問題を討議するのであれば、尹錫悦大統領を招待することは当然であろう。さらに尹大統領を招待したとなれば、あわせて日米韓首脳会談を行い、日米韓の緊密な連携を確認することになるだろう。
ただ、3・1節前の大統領訪日の可能性を伝えた一部報道に対し、韓国大統領室の関係者は1月30日、聯合通信に対して、「2月中の訪日はない」と明らかにしたという。徴用工問題を巡る日本側との溝はまだ埋め尽くしていないようであり、協議を続けるとともに、元徴用工の説得など国内の世論を取りまとめることにもう少し時間がかかるということのようである。