目撃した消防士に話を聞いたことがある。とぐろを巻いたオレンジ色の灼熱の炎は垂直に立ち上っていて、まるで竜や大蛇のようで、意思を持った生き物に見えたそうだ。通常の火災とは全く異質に見えて、「これ消せるのか」と不安に思ったという。

想定死者数に入っていない甚大被害と外れ続ける想定

 東京都が2022年5月に発表した被害想定では*2、最大の被害をもたらすのは都心南部でマグニチュード(M)7.3の地震が発生した時で、死者は6148人、うち火災による死者は2482人と計算している。「あれ、こんなに少ないのか」と思って都防災計画課に聞いてみると、2482人の中に、火災旋風の被害は入っていないのだという。

「関東大震災でも発生したので起きないとは言えない。しかし定量的に被害を算出するのは難しいため」という説明だった。

 教えてもらって被害想定報告書をよく読んでみると、後ろの方に「多くの人が集まる場所で火災旋風が発生した場合は、死傷者が大幅に増加する可能性がある」「火災旋風の強風自体によって死傷者や避難困難者が発生するほか、火の粉が飛ぶことで出火して延焼拡大につながる可能性がある」「動きが予測できない(移動する場合もあれば、長時間一か所に止まる場合もある)点も、火災旋風の危険性のひとつである」*3と書かれていた。

 火災旋風のほかにも、数値には入っていない被害拡大シナリオが報告書に挙げられていた。

・高齢者や障害者など要支援者の逃げ遅れ(単身高齢者のうち約4.4万人が寝たきり)
・多くの住民が一斉に避難を開始することによって混雑し、避難場所で受け入れ困難となって逃げまどい、火災に巻き込まれる
・東京湾岸の石油タンクなど発火性危険物質による被害
・イベント開催中のホール、体育館など多数の人が集まる場所に延焼したり、道路閉塞で避難困難になったりする
・地下街、ターミナル駅や商業施設、建物の高層階で出火し、防火設備や消防用設備が十分機能しなかった場合

 高層階の火災などには、スプリンクラーが頼りだが、実は壊れやすい。総務省消防庁が、宮城、岩手、福島の大規模建築物の消防用設備を東日本大震災の時に調べたら、スプリンクラー設備の破損や誤作動が少なくとも26.3%で報告されていた*4。建物の揺れと、スプリンクラー機器の揺れ方が異なることから、そのズレが原因で壊れることが多いようだ。消防設備用の非常電源も8.8%で被害があり、肝心な時に機能しない可能性は相当高い。

*2 東京都防災会議「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」2022年5月
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000902/1021571.html

*3  同上 p.5-26

*4 総務省消防庁「震災時における建築物の防災管理等に係る運用実態調査の概要」
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento070_05_2-3.pdf