阪神・淡路大震災の時、神戸市の地域防災計画は全壊3000棟を予測していたが、実際には20倍以上が全壊した。

 東日本大震災で、岩手県の陸前高田市以南に押し寄せた津波は、国の中央防災会議が想定していた2〜9倍もの高さだった。津波による犠牲者の8割はそこで亡くなった。被害想定は、大きく外れるもの、と考えておいた方が良い。

死亡率数倍、災害時に露呈する格差社会の醜さ

 震災は、いつもは見ないふりをしている社会の歪みを、つきつけられる場にもなる。

 阪神・淡路大震災の被害を調べると、高齢者、生活保護受給者、外国人、障害者などの被害率が高かったことを、いのうえせつこは解き明かし「震災の被害は平等に訪れるわけではない」と述べている*5。首都直下地震では、より鮮明になることだろう。

 たとえば、神戸市内で生活保護受給世帯の死亡率は、市民平均の約5倍にのぼっていた*6。震災当時、約4万人が住んでいた外国人の死亡率も、神戸市民(約150万人)の平均より高い。ブラジル人で5.7倍、中国1.8倍、韓国・北朝鮮1.5倍などだ。強度が十分でない古い建物などに住んでいた経済弱者に被害が集中したと見られている。

 デマによる被害も心配だ。関東大震災の時には、「朝鮮人が武装蜂起し、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じた」(内閣府 中央防災会議報告書*7)と記録されている。

 災害後の援助にも、差がつくことだろう。阪神・淡路大震災で被災した大企業の正社員には、自治体の援助よりずっと前に、会社が新しい住居を近隣都市で手配している様子を目の当たりにした。

 次の震災でも同じだろう。避難所にさえ入れず、半壊して水も出ない家で、極寒や酷暑に耐えなければならない被災者たちとの格差が露骨になりそうだ。

 幸い、「首都直下」の確率は70%よりずっと低いが……。

*5 いのうえせつこ『地震は貧困に襲いかかる』2008年1月 花伝社

*6 震災復興調査研究委員会「阪神・淡路大震災復興誌」1997 第1巻p.271
https://www.dri.ne.jp/wp/wp-content/uploads/fukkoushi_vol1.pdf

*7 内閣府 中央防災会議 災害教訓の継承に関する専門調査会「1923 関東大震災【第2編】」2008年3月https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/rep/1923_kanto_daishinsai_2/index.html