ロシア軍がウクライナに対して使ったとされる、核弾頭が搭載可能な巡航ミサイルの破片。昨年末、ウクライナ軍によって公開された(写真:ロイター/アフロ)

(河野克俊:前統合幕僚長)

 ロシアは、2021年秋から約15万~20万の兵力をベラルーシとの共同演習と称してウクライナ国境に展開していた。そして、昨年2月24日、ウクライナへの侵略を開始した。

ロシアに言う資格がない「約束破り」

 当初は、ロシアが国家承認したドンバス地方の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」からの要請によるとして、ウクライナ東部へ侵攻した。だが、次第にクリミア半島を繋ぐ南部地域に侵攻し、そしてついにべラルーシ国境から首都キーウに向かっていった。

 ロシアの目的は、ゼレンスキー政権を倒し、ウクライナを非軍事化、中立化することである。これはすなわち、少なくとも安全保障に関してはウクライナの主権を認めないということである。

 プーチン大統領は、「冷戦直後に米欧諸国はNATOを拡大しないとロシアに約束したにもかかわらず、それを守らなかった」という主張を繰り返している。この「約束」は、米国のベーカー国務長官(当時)やドイツのゲンシャー外相(当時)らが口にしたとされるもので、文書として残っているわけではない。

 そのような流れの中で2008年4月のブカレストNATO首脳会談で、ウクライナとジョージアの将来的なNATO加盟の方針が確認された。

 これに反発したロシアは、2008年にジョージアに侵攻し、南オセチア及びアブハジアを実効支配した。2014年には、ウクライナのクリミア半島をいわゆるハイブリッド戦により併合した。

 ロシアはNATOが約束を破ったと主張するが、文書に残っていないものを根拠にすることは国際政治では通用しない。一方で文書として残っていた日ソ中立条約を一方的に破り我が国に侵攻したソ連の歴史を鑑みると、その末裔であるロシアは言える立場ではない。