大手電力をいじめる非対称規制

 このため全面自由化後も、旧一電は需給が逼迫しても価格を上げず、予備率8%を守った。他方で新電力はまったく供給責任を負わず、発電装置も持つ必要がなかったので、大量の「転売屋」が出現した。

 彼らは限界費用ゼロの再生可能エネルギーを卸売市場(JEPX)で買い、旧一電よりはるかに安い料金を出すことができた。夜間など再エネが使えないときは、旧一電が火力や原子力で発電した電力をJEPXで買えばいいので、設備投資はしない。

 それでも新電力のシェアが小さいうちは、再エネの不安定性を旧一電のベースロード電源で補う善意に頼った運用で、供給の安定が保たれたが、新電力のシェアが2割近くなると、その不安定性が利用者に大きな影響を与えるようになった。

 その例が、当コラム(「ギャンブルで負けた金を返せと要求する新電力」)でも紹介した、2021年1月の卸電力価格の急上昇である。これ自体はLNG(液化天然ガス)の不足という一時的な原因によるものだったが、自前の発電設備をもたない新電力の経営が破綻し、約100社が廃業した。

 それ自体は大した問題ではない。むしろ価格の急上昇(スパイク)で、発電会社が大きな利益を得ることは、電力自由化の前提だった。ところがこのとき再エネ議連などの政治家が「新電力を救済しろ」と圧力をかけ、資源エネルギー庁はJEPXの電力卸価格に上限価格を設けた。

 このように旧一電が超法規的な供給責任を負わされ、卸価格も実質的に規制される非対称規制では、JEPXと無関係な法人契約で儲けるしかない。これは相対で自由競争なので、関西電力が他の電力会社のエリアで激しい法人営業を繰り広げた。

 今回のカルテル事件は、このような過当競争の中で、法人営業の競争を自粛しようという関西電力の働きかけで、各社がエリア外への営業をやめて起こったという。最初に公取委に申告した関電は、課徴金減免制度(リーニエンシー)で課徴金ゼロだったが、それに応じた中国電力は700億円の課徴金を命じられた。その背景には、この10年続いてきた非対称規制がある。