(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)
ヨーロッパがエネルギー危機に見舞われる中、ドイツにある3基の原子力発電所が、昨年(2021年)12月31日に運転を停止した。残る3基も今年末までに停止され、ドイツは「原発ゼロ」の国となる。
エネルギー危機に対応して、EU(欧州連合)委員会は「グリーンエネルギー」に原子力と天然ガスを含めることを決めたが、これに対してもドイツは反対し、原子力を認めない方針を打ち出した。自らエネルギー危機に飛び込むドイツ政府は、何を考えているのだろうか。
20年前に決まった「原発ゼロ」
ドイツでは1990年代に緑の党が、脱原発を旗印にして躍進した。社会民主党(SPD)もこれに同調し、2002年の原子力法改正で原子炉の新設が禁止された。既存の原発を段階的に廃止し、その穴を再生可能エネルギーの固定価格買い取り(FIT)で補うエネルギー転換(エネルギーヴェンデ)が打ち出された。
しかしFITの賦課金で電気代が上がったため、メルケル政権は2010年に脱原発の先送りを決めた。ところがその直後の2011年3月に福島第一原発事故が起こったため、原子力法を再改正し、当時17基あった原発を2022年末までにゼロにすると決めた。
結果的には、原発の穴を埋めたのは石炭火力だった。それもドイツ国内で採掘できるのはCO2排出量が最大の褐炭だったので、排出量はほとんど減らず、一人当たりでフランスの2倍になった。