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(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 スタグフレーションという言葉を聞いたことがない人も多いだろう。1970年代に不況(スタグネーション)とインフレが同時進行した状況を指す言葉である。日本では「石油ショック」として知られているが、長く過去の出来事だと思われていた。

 しかし9月の企業物価数は前年比6.3%上がり、ガソリンの価格は20%上がった。その最大の原因は、世界的な資源インフレである。コロナ不況から脱却できない中で、70年代のようなスタグフレーションは再来するのだろうか。

スタグフレーションをもたらしたのは政治だった

 今回のインフレのきっかけも、エネルギー資源の値上がりである。かつては第4次中東戦争をきっかけにOPEC(石油輸出国機構)が原油を値上げしたことが原因だったが、今回は世界各国で進められている「脱炭素化」が最大の原因である。

 中国では政治的な理由でオーストラリアからの石炭輸入を止めた後、北部で起こった洪水で60以上の炭鉱が閉鎖され、深刻な電力不足に陥った。

 EU(ヨーロッパ連合)諸国では、天然ガスのスポット価格が大幅に上昇し、イギリスでは計画停電が頻発している。フランスやイタリアでは、高騰した電気代を払えない世帯に政府が補助金を支給することを決定した。日本でもLNG(液化天然ガス)の輸入価格は年初の5倍になり、電気代は13%上がった。

図 LNGのスポット価格(出所:石油天然ガス・金属鉱物資源機構)
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 その原因はガスの供給が減ったからだが、それだけでは大インフレは起こらない。1970年代には不況対策としてバラマキ財政が行われ、財政赤字が拡大して金利が上昇し、失業率と金利とインフレ率が10%台になって生活が破壊された。スタグフレーションを生んだのは政治だった。