(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 政府は6月7日の関係閣僚会合で、今年の夏の電力需給は「きわめて厳しい状況」との認識を示した。しかしそれを打開する具体策は「節電要請」と、電力会社への「火力発電の再稼働」の公募だけだった。

 もっと危険なのは、今年(2022年)の冬である。経産省の見通しでは、電力供給の需要に対する予備率は、来年1月にはマイナス6%になり、罰則つきの「電力使用制限令」が発動される見通しだ。それがわかっていて供給力を強化できないのは、なぜなのだろうか。

「電力設備を強化する必要はない」と主張する再エネ派

 今年の3月22日、東京電力の管内は大停電(ブラックアウト)が起こる一歩手前だった。その最大の原因は、3月17日の地震で東電と東北電力の火力発電所が停止し、出力が335万キロワット低下したことだが、もう1つの原因は、これが3月に起こったことだった。

 冬の電力消費のピークの1月から2月には火力発電所はフル稼働するが、3月は停止して補修点検する。このため3月下旬の最大供給量は2012年の4712万キロワットだったが、3月22日は季節外れの大寒波で、最大需要電力の予想は4840万キロワットと130万キロワットの供給不足になる見通しだった。

2008年以降の3月と3月下旬の最大電力需要(資源エネルギー庁)
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 このため「電力逼迫警報」が出され、揚水発電をフル稼働し、デマンドレスポンスを動員し、連系線を利用して電力を融通し、供給電圧の低め調整という危険な対策まで動員して、電力需要を4534万キロワットに抑制し、大停電をまぬがれた。

 ところが、これについて内閣府の再エネ等規制等総点検タスクフォースは、4月25日に「電力は足りる」という提言を出して、電力関係者を驚かせた。

 それによると「冬の最大需要は5380万キロワットだったので、3月の最大需要4840万キロワットを満たす供給力は存在していた」から、原発再稼働や火力の増設は必要ないという。

 これに対して5月27日に資源エネルギー庁が詳しく反論した。3月は約1000万キロワットの定期補修が予定され、最大に稼働しても4500万キロワット程度が限度だった。

 合計270万キロワットの柏崎刈羽6・7号機が動いていれば、大停電のリスクはなかったが、再エネタスクフォースは「原発は頼りにならないので再稼働の必要はない」という。頼りにならないのは天気まかせの再エネである。