(市岡 繁男:相場研究家)
8年前に発した警鐘通りの事態に
ロシアとウクライナの戦いが長期化しています。
そこでウクライナ問題について詳しいジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授が2014年9月にフォーリン・アフェアーズ誌に寄稿した論文(「Why the Ukraine Crisis Is the West's Fault」)を読み返してみました。同教授が8年前に警鐘を鳴らした通りの事態が2022年2月に起きたのです。そのポイントを紹介しましょう。
- ウクライナ危機の直接的な原因は、欧米がNATOの東方への拡大策をとり、ウクライナを欧米世界に取り込もうとしたことにある。欧米は、ロシアと国境を接するウクライナを欧米圏に組み込もうと試み、大きな失敗を犯した。今後も間違った政策を続ければ、さらに深刻な結末に直面することになる。
- 米国は1990年代半ば以降、NATOの東方拡大策をとり始めた。2008年にブッシュ政権はグルジアとウクライナの加盟も検討し始めたが、フランスとドイツは「不必要にロシアを挑発することになる」と警戒して、これに反対した。しかしNATOは「これらの国はいずれメンバーになる」という声明を発表した。
- これに対しプーチン大統領は、「グルジアとウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアに対する直接的脅威になる」と表明した。2008年8月のロシアのグルジア侵攻は、グルジアとウクライナのNATO加盟阻止にプーチンが本気であることを立証した。
- しかしNATOは2009年にアルバニアとクロアチアをメンバーに迎え入れて拡大策を続けた。EUも東方拡大路線をとった。2014年2月にウクライナのヤヌコビッチ政権が崩壊したとき、ロシアの外相が「EUは東欧に勢力圏を作ろうとしている」と激しく批判したのも無理はない。
- 米国は、ウクライナに欧米の価値観を浸透させ、民主化を促進させようとした。これに対しプーチン大統領は、ウクライナとの国境に大規模なロシア軍を配備し、軍事介入も辞さない姿勢をみせた。ウクライナはロシアにとって戦略的に重要なバッファー国家なのだ。現在の政策を続ければロシアとの敵対関係はさらに激しくなり、誰もが敗者となるだろう。