だいぶはっきり見えてきた。
これが目指していた落石岬(おちいしみさき)灯台(北海道根室市)だ。形はそれほど特徴がない。赤い塗色は積雪時にも建物を認識できるようにするためで、珍しいというほどではない。
だが、この灯台が自分だけの特別なものに思える。霧の中、足下に集中しながら歩いてきた25分が、そう感じさせるのだ。かすかに流れている霧しか動くものはない。この一帯は森にさえぎられ、現実とは切り離された世界のように思えてくる。
聞こえるのは波の音ぐらい。灯台のすぐ先、切り立った崖の下では荒い波が岩を打ち付けていた。
霧の中に建つ灯台は頼もしく見える。もし嵐の夜に光を放つ灯台を見ることができたらさらにそうだろう。
木道や標識が整備・手入れされていることからわかるように、落石岬とその灯台は観光スポットとして多少知られている。実際、灯台から車止めまで戻る途中では数人とすれ違った。なのでいつでも「独り占め」できるとは言えないのだが。