ウェストミンスター寺院で9月16日に行われたお通夜(手前は新国王のチャールズ3世、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

条件付きで招かれた北朝鮮とイラン

 英国のエリザベス女王の国葬が9月19日、ロンドンのウェストミンスター寺院(収容人数2000人)で執り行われる。

 全世界から国王、大統領、首相ら高位者500人が参列して、今世紀最大規模の弔問外交が繰り広げられる。

 招待状は、グレート・ブリテン&北アイルランド連合王国の「外務・英連邦・開発省」(Foreign, Commonwealth, Development Office=FCDO)*1から各国の駐英大使館を通じて各国外務省に送られた。

*1=かつて7つの海を支配した「大英帝国」の歴史を物語る仰々しい名前だが、いってみれば、日本の外務省、米国で言えば国務省だ。左翼は「英植民地主義の名残をいまだに引きずっている」と揶揄している。

 その役所が英王室と協議して決めた「招待受諾者リスト」に大袈裟な言い方をすれば、世界が一喜一憂している。

 特に被植民地だった米国では、物議をかもしている。

 米国人の「英国崇拝」は、一朝一夕にはなくなりそうにない。かつての英国植民地であり、英国軍と戦って独立を勝ち取ったのになぜなのか。

 英歴史学者のジェームズ・ボーン博士によれば、米国民は19世紀から20世紀初頭までアンチ英国だったという。

 ところが産業革命以降、今でいう先端技術を始め、米国の近代化を推進させてくれた英国に対する劣等感も手伝ってか、米国民のネガティブな対英感は急速に薄れたという。

https://www.grid.news/story/politics/2022/09/09/why-are-some-americans-so-obsessed-with-queen-elizabeth-ii-and-the-british-monarchy/

 何といっても英語という言語はもとより、清教徒に始まり、英国文化、宗教、風習は米国主流に深く根ざしてきた。

 それはその後移住してきた非英国系の欧州移民にもコモンセンスとして受け入れられた。

 そうした下地を深化させたのは第1次大戦、第2次大戦でともに戦った「戦友関係」だった。

 特に米国民の英国王室に対する関心の強さは異常だ。同じ欧州の王室でも米国民はオランダやスペインにはほとんど関心を示さない。

 言語が英国と共通ということから英国王室はほとんどの米国民にとっては親しみやすい。英国メディアは米国に進出、英王室ニュースは英米で完全に共有されている。

 さらにエリザベス女王をはじめとする英王室のメンバーはカラフルだ。米国民にとっては、ちょうど日本人にとっての「時代劇」のようなものなのだ。

 ダイアナ妃をめぐる数々の悲劇は言うに及ばず、最近ではヘンリー王子と米女優だったメーガン妃の“米国亡命”は、米タブロイド紙にとって格好のネタを提供してきた。

 米英合作のテレビドラマシリーズ「The Crown」(ザ・クラウン)*2は爆発的な人気を呼び、ゴールデングローブ賞に輝いた。

*2=『ザ・クラウン』は、ピーター・モーガンの原作・脚本による米英合作のテレビドラマシリーズ。エリザベス女王の治世を描く ネットフリックス作品。レフト・バンク・ピクチャーズ(Left Bank Pictures)およびソニー・ピクチャーズ テレビジョンが制作。

 米国民の対英観の中心に鎮座ましましていたのはエリザベス女王だった。

 それだから女王が逝去したニュースはまるで、自国の国家元首が死んだかような報道ぶりだった。

 だからこそ、国葬ともなれば米国は大統領はじめ大統領経験者、上下両院議長らで構成された弔問団が参列するのではないかと見られていた。

 ところが、英国から「現職大統領とファーストレディのみでおいでください」と言われてしまえば、それまでだった。

 理由は「会場収容人員」という物理的なものと言ってしまえば、日本はじめ多くの国は、相手の都合を聞き入れてすんなりと従う。

 だが米国はそうではない。

 超大国の驕りか(?)、米国は相手の都合を素直に受け入れるお国柄ではない。

「俺はエリザベス女王とは一番近かった」と国葬参列をほのめかしていたドナルド・トランプ氏のような御仁もいる。

「英国」と近いということは、米国内では「葵の御紋」的な効力を発揮する。

 そのトランプ氏が英王室から間接的に「招かれざる客」の烙印を押されてしまった。この話は後で細かく記す。