一般通行証と特殊通行証、想像以上に厳格で煩雑な通行証制度(写真:AP/アフロ)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 資本主義世界では、出張やバカンスなどで自分の住んでいる場所を離れるのは自由だ。ところが、海外はもとより、国内の移動すら制限されている国は今なお存在している。隣国、北朝鮮もそんな国の一つである。

 北朝鮮には居住や移動の自由がない。自分の思うままに移動することが許されず、居住することもできない国は世界の中でも北朝鮮が唯一ではないか。

 国際人権規約第12条1項には、「合法的に、いずれかの国の領域内にいるすべての者は、当該領域内において、移動の自由及び居住の自由についての権利を有する」と明記されているが、北朝鮮は住民の移動権と居住権を国家が徹底的に管理・統制している。

 その手段の一つが北朝鮮で今も実施されている「通行証制度」だ。

 北朝鮮住民は、自分が暮らしている居住地から他の地域に移動する時には、必ず「出張(旅行)証明書」(以下「通行証」)を発給してもらわなければならない。

 例えば、北朝鮮西部の黄海道に住む人が北西部の平安道に移動する場合、通行証の発給を受けなければ平安道に移動することはできない。通行証の発給なしに居住地を離脱して他の地域で摘発された場合、集結所(取り締まった人々を集めておく場所)で1~2週間、無条件の強制労働が課される。

 これは、初めて取り締まりにあった人に限る。取り締まり回数が2回以上の人は労働鍛錬隊(刑務所に行く直前の強制労働収容施設)で、1~3カ月程度の強制労働をしなければならず、5回以上になると、常習離脱犯として取り扱われ、労働教化所(刑務所)で1年以上の懲役刑を受けることになる。

 これだけではない。運良く取り締まりから逃れて他の地域に入ったとしても、宿泊することができない。

 旅館やホテルを取ろうとしても、常に通行証の提示が求められるため、通行証がなければ宿を取ることができない。知人宅に泊まろうとしても、該当の分駐所(派出所)に臨時宿泊登録をしなければならず、この時も通行証の提示が必須だ。

 このように、通行証がなければ他の地域に行っても、自由に行動ができない。そして、行く先々で保安員(警察)の抜き打ち検問があるので、通行証なしに行動しても、取り締まられるのは時間の問題である。