今年1月に開催された朝鮮労働党中央委員会の総会。組織の末端は細胞秘書が支えている(写真:AP/アフロ)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 共産圏で使われる用語に「細胞秘書」という言葉がある。ここで言う「秘書」という単語は、資本主義社会で使う「秘書」とは意味が異なり、朝鮮労働党の最下位の党組織責任者を意味する。

 北朝鮮では、5人から15人で構成された朝鮮労働党の最下位末端組織を「党細胞」と呼ぶ。生物の基本単位が細胞であるように、朝鮮労働党を構成している基本単位組織も細胞である。

 その細胞の責任者である細胞秘書は、北朝鮮の細胞にくまなく入り込み、国民を監視、指導することを通して国内の統制、安定に努める責務を負う。

 例えば、田舎の50人ほどの学校であれば、校長の上に細胞秘書がおり、校長より権限を持つ。町内でも、会社でも、農場でも、すべてに対して細胞秘書がいる。

 細胞秘書を日本でたとえれば、町内会の会長のような存在に近い。ただ、北朝鮮の場合、命令系統は細かく分かれているが、頂点にいるのは金正恩総書記をはじめとした金一族である。

 先日、北朝鮮の北東部に位置する咸鏡北道清津市のある工場で、細胞秘書のチェ氏が遺書を残し、自殺する事件が発生した。

 彼は、ひたすら朝鮮労働党だけを信奉し、忠実に生きてきた、模範的な党細胞秘書であった。ところが、チェ氏はこれまでの人生を後悔する遺書を書き残して自殺した。なぜ彼は自殺したのだろうか。