(田中 美蘭:韓国ライター)
安倍晋三元首相の衝撃的な死から1カ月半が過ぎたが、この事件はどこか既に遠い昔のような記憶になってしまっている印象を受ける。
その背景には、事件の本質よりも、「安倍氏の国葬反対」や安倍氏と関係が深いとされている旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に関する報道が過熱し、国民の分断や怒りを煽るようなシチュエーションになっていることが挙げられる。
8月18日にソウルの中心部で「旧統一教会」の信者たちによるデモが行われた。デモ参加者は主催側の旧統一教会と警察の発表で差があるものの、約4000人が参加したようだ。このうちの大多数が韓国に在住する日本人信者の女性だと言われている。
デモの目的は、日本で過熱する「旧統一教会」に関する報道が教団を一方的に非難した偏向報道であるという点や、信仰、宗教の自由が侵害されているということへの抗議とのことであった。
安倍氏が殺害されて以降、容疑者の供述から突如としてその名が浮上した「旧統一教会」。30年前にも芸能人や元スポーツ選手が信者であり、合同結婚式に参加をしたことなどから世間で大きな注目を集めた。さらに、不安を煽って高額の商品を購入させる「霊感商法」と呼ばれる商法が非難された。
当時は現在と異なり、テレビや新聞、週刊誌が主たる情報源であり、一定期間を過ぎると報道熱や世間の関心も冷めていった。しかし現在では、こうしたメディアに加えて、SNSやYouTubeを通じて個人でも幅広く発信ができる時代であるだけに、一つの事象に広く持続的に関心が向けられるようになっているのではないかと感じる。
そして、日本でのとどまるところを知らない旧統一教会への報道と世論からのバッシングと対照的なのが、韓国である。日本で毎日のように報道に触れている国民から見れば、「旧統一教会の本家とも言える韓国は、この報道をどのように思っているのか?」と疑問に思う人も多いことであろう。
しかし、韓国に於ける旧統一教会に関した報道は日本と比較して極端に少ない上、国民の関心も実に冷めていると言っていい。