8月17日、就任から100日目の日に記者会見を行った尹錫悦大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 戦時中の徴用をめぐる訴訟での資産売却命令に関し、三菱重工業が韓国の大法院(最高裁)に出した再抗告が受理されてから、8月19日はちょうど4カ月目の日となっていた。

 韓国の上告審手続きに関する特例法によると、大法院は再抗告の受理から4カ月以内であれば、理由を示さずに「審理不続行」との判断で棄却することが出来る。19日は「審理不続行」の決定期限であり、同日までに判断が下されるとの見方が出ていた。

 もしも三菱重工による再抗告が棄却された場合、日本側としては資産の現金化を止める司法の手段が尽き、原告は日本企業の資産を現金化する具体的な手続きを始められるようになる。日本政府は日本企業に実害が及んだ場合、対抗措置を辞さない構えで、日韓関係が一層悪化するのは確実だった。

「現金化」の決定先送り

 だが、日韓関係の改善をめざす尹錫悦大統領は、日本企業に実害が及ぶ資産の現金化を回避する姿勢を鮮明にしてきた。これに対し、韓国強制動員市民の会は、反発を強めていた。政府と徴用工支援団体との激しい対立の板挟みとなっていた大法院は、19日にどのような決定をするか注目されていた。

 その19日、大法院はどのような決定を下したか――。なんと、18時までの業務時間内に、三菱重工の商標権・特許権など韓国資産の売却(現金化)命令を巡る再抗告について最終的な決定を出さなかったのだ。要するに、決定の先送りだ。

 だが、日本側はこれで一安心というわけにはいかない。今後も再抗告についての審理は継続されることになっており、大法院がいつ決定を下すか予断は許さないのだ。

 今回の決定先送りに至る経過、その意味、今後の見通しについて分析してみよう。