(在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人)
[ロンドン発]ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台で台湾情勢が緊迫する中、日本を「アジアにおける最良の友」と呼ぶオーストラリアのトニー・アボット元首相(64)が16日、ロンドンでの講演会で筆者に対し、中国が台湾に侵攻する時期について「この2週間で中国が台湾にかけた圧力は、すべてを前倒ししようとしていることを表している」と指摘した。
アボット氏は英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサエティー」で「自由世界を守る/ウクライナと台湾情勢」と題して約1時間、講演した。この際「中国が台湾に対して何らかの軍事行動を起こす可能性がある時期として今後18カ月とか、2025年また27年とか、さまざまな分析が飛び交っている。あなたはどうみるか」という筆者の問いにこう答えた。
「私の理解では昨年、米国は、中国が台湾を攻撃する可能性はこの10年の終わりごろ(2030年)までないと分析していた。なぜなら中国は自らの水陸両用上陸作戦能力や対潜水艦能力がまだ十分ではないと判断していたからだ。台湾の人々はそれほど楽観的ではなかったと思うが、それでも中国が差し迫った軍事行動を起こすとは考えていなかったはずだ」(アボット氏)
「この2週間ほどで、台湾を取り囲むように実施された軍事演習など介入圧力が継続され、強化されたことは、中国がこれらすべてを前倒しして実施しようと考えていることを表している。それは今日なのか、今週なのか、来月なのか、来年なのか。台湾の人々、中国の指導者を含め誰にも分からないだろう」(同)
「あらゆる可能性を想定し、準備を始めることが重要だ」
「しかし明らかに中国は焦っている。彼らは機会をうかがっている。民主主義諸国、特に台湾の友人たちはあらゆる可能性を想定し、計画を立て、準備を始めることがこれまで以上に重要だ」とアボット氏は力説した。中国が台湾に侵攻した場合、日本がどう対応するかについては「台湾は九州からボルネオ島を結ぶ第一列島線の一部だ」とした上で、こう答えた。
「安倍晋三元首相(故人)や麻生太郎自民党副総裁は、中国が台湾に侵攻した場合、安全保障関連法で集団的自衛権を行使できる存立危機事態に発展する可能性があると述べている。2人とも日本の安全保障における台湾の重要性について衝撃的な発言をしている。この発言から明らかなのは、日本は台湾防衛のために自衛隊を配備する用意があるということだ」