(在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人)
[ロンドン発]8月29日、ウクライナ軍が南部の要衝地ヘルソンの「奪還作戦」を開始した。この日の深夜、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は演説を行い、ロシア軍の兵士にこう呼びかけた。
「生き延びたいのであれば、ロシア軍は退却する時がやって来た。自分の家に帰りなさい。ロシアに戻るのが怖ければ降伏しなさい。われわれは戦争捕虜の保護を定めたジュネーブ諸条約のすべての規範を順守することを約束する」
「ウクライナは自国の領土を取り戻している。ハルキウ州、ルハンスク州、ドネツク州、ザポリージャ、ヘルソン州、クリミア半島、黒海とアゾフ海、ズミイヌイ(蛇)島からケルチ海峡まで必ず奪還する。それは必ず実現する。ここは私たちの領土だ。ウクライナにロシア軍の居場所はない」
ウクライナは「第1防衛線突破」を公表、ロシアは「ウクライナの攻撃は失敗」と主張
ヘルソン州カホフカの作戦グループは29日、ウクライナ軍がヘルソンを占領するロシア軍の「第1防衛線」を突破したとするビデオを公開した。いわゆる「ドネツク人民共和国(DPR)」第109連隊がヘルソンの陣地から退却し、彼らを支援するロシア軍空挺部隊も戦場から逃亡したという。地元紙ウクライナ・プラウダが事実を確認したとして伝えた。
ゼレンスキー大統領の顧問オレクシイ・アレストビッチ氏は動画投稿サイト、ユーチューブで「これは敵を擦り潰すため計画されたスローな作戦で、ウクライナの軍人と民間人の命を守るためのものだ。忍耐が求められる。この作戦はあまり速く進まないが、ウクライナのすべての領土にウクライナの国旗を立てることをもって終了する」と述べた。
ロシア軍はいつものように大本営発表を繰り返し、「ウクライナ軍の反攻は失敗に終わり、大きな損失を出した」と主張した。実際、戦況はどうなのか。西側メディアもウクライナ当局の発表に半信半疑だ。
5月からウクライナ軍に参加し、ヘルソンに近いクリヴィー・リフで戦闘外傷救護を指導する元米陸軍兵士マーク・ロペス氏(現ウクライナ軍少佐)は30日、筆者のZOOMインタビューに応じ、「ウクライナ軍は最大12ルートの攻撃軸から一気にヘルソンに攻め込んだ。これは兵站基地クリミアの分断作戦だ」と分析した。
ロペス氏はイラクやアフガニスタンに従軍。米民間警備会社を経営してからもアフガンに関わり続け、昨年8月にはアフガン脱出作戦を支援した。2014年から4年間、現地でウクライナ軍に爆発物探知や戦闘外傷救護を指導したことから、ウクライナ軍の情報に詳しい。ロペス氏は「ヘルソン(Kherson)」の頭文字を取って「Kデイ」が始まったと話した。