大企業の影響力には期待できず

 時代が違えば、米国企業の影響力がトランプ氏を脇に追いやることに寄与していたかもしれない。

 しかし、共和党が白人労働者階級と次第に数が増える保守派ヒスパニック系市民の運動と化すに従い、大企業の政治的影響力は弱まっている。

 この運動は、外国との面倒なもめ事や不法移民、メディケア(高齢者向け公的医療保険制度)とソーシャルセキュリティーの給付削減に抗議するだけでなく、貿易にも、グローバルなエリート管理職が進めてきた左派のアイデンティティー政治にも反対している。

 共和党支持者の多くは、同党はあまりにも長い間、米国人労働者よりもS&P500種株価指数に名を連ねる大企業の利益を優先してきたと考えている。

 そうであれば、11月の選挙で共和党が勝利するとの見通しに大企業が戦慄していることもうなずける。

 共和党のエスタブリッシュメントの残党は亡命政府のような振る舞いを見せており、トランプ氏の乗っ取りに文句を言いながら、それを覆す手段は持っていない。

一番の望みは米国民の良識

 共和党も法律もトランプ氏を止められないとしたら、止められるものはあるのだろうか。

 勧善懲悪の考え方に則れば、民主党の候補者に投票することに耐えられない共和党支持者の票を吸い上げるべく、チェイニー氏がイチかバチかで大統領選挙に出馬するのが望ましい。

 共和党の牙城とされる州の接戦で十分な数の有権者を取り込むことができれば、大統領選挙人の獲得人数によってトランプ氏の勝利を阻めるかもしれない。

 それよりも優れているのは、米国民の良識に頼ることだ。

 忘れがちなことだが、トランプ氏は選挙に弱い。同氏が大統領の座にあった4年間で、共和党はホワイトハウスのみならず、連邦議会の上下両院で主導権を失った。

 トランプ氏が非民主的で危険な人物であることは多くの有権者が理解しているし、ほとんどの人は復活を望んでいない。

 トランプ氏が無記名投票制度の信頼性を貶める運動をあれほど激しく展開しているのは、投票箱が自分を倒せることを分かっているからだ。