確かに、ドイツは欧州で最強の経済国として、最も安定した政治体制として、そしてドイツ国民が自負するところでは最も責任ある市民として、他国から羨まれる実績を誇る。

 だが、安価なロシア産燃料に対するドイツの依存(ロシアによって念入りに育まれてきた仕組み)はエネルギー供給を武器にするクレムリンの脅迫に弱いだけでなく、プーチン氏のウクライナ侵攻の原資にもなってきた。

なかなか捨てられなかったバラ色の想定

 この忌まわしい状況は、ドイツの別の欠点の産物だった。

 その欠点とは、ドイツ自身の幸せな近年の歴史に根差すバラ色の想定を、なかなか疑問視しようとしないことだ。

 長期政権を誇ったアンゲラ・メルケル前首相は、ロシアとの貿易は同国の好戦的な態度を和らげるという考えを好んでテーマにしていた。

 安心感を醸すこうした考えのおかげで、ドイツはあまりにも長い間、ドイツ自身および欧州全体の防衛に多額の投資を求める同盟国からの懇願に耳を貸さなかった。

 ドイツはほかの課題からも目を背けた。

 ドイツ経済は依然、伝統的な工業製品の輸出に過度に依存している。

 成長の余地が小さく、原材料の調達先、そして最終製品の市場として中国という一つの国に過剰に依存している分野だ。

 公共支出に関する厳しいルールもあり、ドイツはインフラ投資が不足してきた。往々にして、ドイツの電車は定刻通りに運行しない。

 公的部門、民間部門はともに、サービスのデジタル化の遅れと熟練労働者の不足に足を引っ張られている。

 労働者不足は人口動態上の危険の前触れだ。ドイツでは向こう10年間で、退職する人の数が労働力に新たに加わる人の数を上回るからだ。