原発稼働延長を示唆したショルツ首相(写真:ロイター/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

ついに原発稼働延長を示唆したショルツ首相

 ドイツのエネルギー政策が揺れている。ドイツのオーラフ・ショルツ首相は8月3日、年内に停止を予定していた原発3基に関して、稼働を継続する可能性を示唆した。もともとドイツは2022年中の原発全廃を目指していたが、ロシアのウクライナ侵攻以降のエネルギー不足を受けて、脱原発路線の修正を余儀なくされた形である。

 ロシアがウクライナに侵攻した直後の2022年4月に、2035年までに再エネによる発電100%を目指すエネルギー法案を発表したように、ショルツ政権はあくまで再エネに拘るスタンスだった。しかし6月には、「苦痛」と表現しながらも、脱炭素化の理念に逆行するはずの石炭火力発電を時限的に強化する方針を打ち出した。

 石炭火力発電の時限的な強化を表明したのは、連立政権で大きな影響力を持つ環境政党「緑の党/同盟90」の共同党首であるロベルト・ハーベック副首相兼経済相だった。同党にとって、脱原発はまさに党是である。脱原発の延期よりも石炭火力の強化の方が、同党の支持者の理解を得やすいと判断したのだと考えられる。

 一方で、第三勢力としてショルツ政権を支える自由民主党(FDP)は、経済界の声を重視する。同党はもともとコスト増の観点から脱原発に対して慎重であり、100%再エネを目指すショルツ政権の路線に対しても距離を置いていた。そのためFDPは、足元ドイツで高まる原発稼働延長の機運に対していち早く肯定的に反応した。

 結局のところ、エネルギー不足を受けて有権者の意識が変化し、原発の稼働延長が容認されやすいムードが醸成されてきたことが大きい。