丹後の工場。だいぶ古くなっているが、柔らかい糸を扱える織機が並んでいる

 タオル産業が集積する愛媛県今治市。全国各地の伝統的な地場産業の例にもれず、今治のタオルもまた、輸入品や人口減の波に押されて縮小傾向にある。

 7年前、この地で90年続いていたある老舗タオル会社は、後継者不在により廃業を決めた。店じまいの手続きに入ったことを知った、業界未経験の夫婦。取引先ゼロ、売り上げゼロで事業を引き継ぎ、今、伝統産業に新風を吹き込んでいる。株式会社丹後と「OLSIA」である。

 活気がなくなっていくふるさとに、何とかそよ風でも──。所期の思いを貫徹し、実践した夫婦の足跡をたどる。(河合達郎:フリーライター)

◎第1章:売上高・取引先ゼロの今治の老舗タオル工場を継いだ業界未経験の夫婦の物語(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71072)
◎第2章:古びた織機や職人と立ち上げた新会社、そして生まれたこれまでにないタオル(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71074)

■第3章:御縁

 先代から伝わる織機と練達な職人たちの経験。そして、売り上げの見通しが立たない中でも研究開発にリソースを割き続けた夫婦の確固たる気持ち。これらが組み合わさり、株式会社丹後のオリジナルタオル「OLSIA」は生まれた。

 良質なタオルができた──。丹後博文さん、佳代さんの2人は、我が子の何気ない行動からもそんな確信を深めていった。

「『タオルとミカンはもらうもの』という地域で生まれ育ち、自分たちでタオルは買ったことがなかったんです。でも、研究開発を通して、他社のタオルを買うようになりました。うちの脱衣所にはいろんなタオルが置いてあるんですが、娘がOLSIAを取るんですよね。3段目、4段目に置いてあっても、OLSIAを取るんです。そんな姿を見てグッときました」

 子どもにとっては、バスタオルにメーカーもグレードも、糸の種類も原産地も関係ない。どのタオルを手に取るかの判断基準は、使ってみて純粋にそれが心地よいかどうかだけだ。決して小さくはない不安を抱え続けてきた2人だったが、OLSIAにふんわりと包まれる娘の姿を見て、またしっかりと前を向く力を手に入れた。

 夫婦は口をそろえる。「正直なところ、売れると思ったんです。いいものができたから、売れると思いました」