タオル産業が集積する愛媛県今治市。全国各地の伝統的な地場産業の例にもれず、今治のタオルもまた、輸入品や人口減の波に押されて縮小傾向にある。
7年前、この地で90年続いていたある老舗タオル会社は、後継者不在により廃業を決めた。店じまいの手続きに入ったことを知った、業界未経験の夫婦。取引先ゼロ、売上ゼロで事業を引き継ぎ、今、伝統産業に新風を吹き込んでいる。株式会社丹後と「OLSIA」である。
活気がなくなっていくふるさとに、何とかそよ風でも──。初期の思いを貫徹し、実践した夫婦の足跡をたどる。(河合達郎:フリーライター)
◎第1章:売上高・取引先ゼロの今治の老舗タオル工場を継いだ業界未経験の夫婦の物語(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71072)
■第2章:苦闘
瀬戸内海に浮かぶ大島は、しまなみ海道が結ぶ島々の一つ。この島を訪れる観光客の多くが目指すスポットが、亀老山展望公園だ。
建築家・隈研吾氏が設計した、標高307.8メートルの展望台。背の高いコンクリート壁に囲まれた階段を上りきると、360度遮るものがない開放的な空間が広がる。瀬戸内海は穏やかに光り輝き、フェリーや貨物船が直線を描きながら今治港へと向かっている。
90年続く老舗タオル会社を継いだ丹後博文さんは、不安にさいなまれるたびに今治市から一人車を走らせ、この展望台を訪れたという。
「当時の感情は……。あまり振り返りたくはないですね」
こちらの問いかけに、冗談めかしてそう答えた。
今でこそ経営は波に乗り、伝統的な今治のタオルの業界でも注目を集める存在にまでなったが、継いだ当初は苦しんだ。従業員がいて、工場などの設備はあるが、取引先と売り上げはゼロからのスタート。キャッシュアウトが続き、不安が募らないはずがないという状況だった。
「売り上げが立たない中で出血し続けていたので、ずっとポジティブにいられるような感情ではなかったです。でも、従業員たちの前では不安そうな顔はできないですから。展望台から海に向かって『なんでや!』って叫んでいましたね」