2018年9月、北朝鮮を訪問し、北朝鮮の金正恩氏(右)と首脳会談を行った文在寅大統領(写真:代表撮影/Pyeongyang Press Corps/Lee Jae-Won/アフロ)

 今から1年9カ月前、2020年9月に発生した、南北間の海上境界線(NLL)付近で発生した「北朝鮮軍による韓国公務員殺害事件」を覚えているだろうか。この問題が今、韓国政界の最大争点に浮上している。

(参考:2020年9月25日公開記事)文在寅、自国民を銃殺・焼却されても北朝鮮に甘い顔
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62250

 事件発生当時、殺害された公務員を「越北者」と判断した海洋警察が最近、「越北者と判断できる証拠がない」として意見を覆したためだ。加えて、当時、朝鮮戦争の「終戦宣言」に躍起になっていた当時の文在寅(ムン・ジェイン)大統領府が、国防部と海洋警察の判断に圧力を加えたという証言が続々と出ている。

 殺された韓国国民が自主的に北朝鮮に向かった「越北者」か、あるいは不慮の事故による「漂流者」なのかによって、この事件の意味はまるで違ってくる。だからこそ与党「国民の力」は「徹底した真相調査と関係者厳罰」を要求しているのだが、野党の「共に民主党」では「尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の企画事件」と反発している。

自国民が北朝鮮軍に殺害されながら、国家安全保障会議に参加しなかった大統領

 まず2020年9月に起きたこの事件を、改めて振り返ってみよう。

 9月22日午後3時30分頃、NLL付近の海上で業務遂行中に失踪した海洋水産部所属の公務員A氏の行方を捜索していた韓国軍は、北朝鮮側の海上でA氏が発見されたという情報をつかみ、午後6時36分、文在寅大統領に書面で初めて事件を報告する。

 同日午後9時頃、韓国軍は北朝鮮上部からA氏に対する銃撃指示が下されたことを把握。9時40分から約30分にかけて北朝鮮軍がA氏を銃殺し、遺体を焼却した事実も確認した。

 午後11時には大統領府と国防部の緊急会議が招集され、23日午前1時から国家安全保障会議(NSC)が招集されたが、文在寅大統領は出席しなかった。同じ時間、テレビでは、文大統領が国連総会で南北終戦宣言への支持を訴える演説(録画映像)が韓国全土に放送されていた。