(崔 碩栄:ノンフィクション・ライター)
2022年5月9日、5年間の任期を全うした文在寅(ムン・ジェイン)政権が幕を下ろした。政治家にとって政権交代は与党野党という政治的立場によって悲劇であったり、歓喜であったりするわけだが、5年ぶりの攻守交代が韓国全体に今後大きな変化をもたらしていくことは確実だ。
文在寅大統領は在任末期まで“精力的”に仕事に取り組んだ。退任をわずか6日後に控えた時期に、検察の捜査権をはく奪する内容の法案を議決、公布し、最後の勤務日にも外賓に接見し、参謀たちと会議を開催した。
退任日まで執務に余念のなかった文大統領だが、自身の在任中に終わらせる努力も見せず、1つだけ新政権に丸投げした「宿題」がある。それは韓国が誇る男性7人組アイドルグループBTSの兵役問題である。
BTSを「利用」した文在寅政権
文在寅政権は「BTSを利用している」と、幾度となく指摘を受けてきた。実際に文在寅大統領は自身が参加した国際会議、イベントにBTSを何度も「動員」している。
例えば2020年9月19日大統領官邸で開かれた「青年の日」記念式に青年代表として招待され、文大統領にプレゼントを渡す場面が報じられ、2021年9月にはニューヨークで開かれた国連総会に文大統領が参加する際にBTSを同伴している。そしていずれにおいても、国民からはこれを批判する声が上がっていた。韓国の国民的スターであり、世界的知名度を誇るBTSが文在寅大統領に注目を集めるためのスポットライト役として動員したという批判の声だ。
文在寅政府の要請がBTSの事務所にとって「断れない提案」であったことは想像に難くない。もし政府がBTSの兵役を免除するために動いてくれたなら、それはBTSのメンバーにとってだけでなく、事務所にとって莫大な利益となるからだ。逆に政権の逆鱗に触れ、もし軍隊からメンバーたちに「赤紙」(召集令状)が届けば、その損害は計り知れないほど大きい。