2022年2月、乳がん検診を呼びかけるポスターが炎上した。
<「まさか、私が」と毎年9万人が言う>という文言とともに福引き抽選器ガラガラポンから当たりの赤い玉が出た絵がデザインされたポスターだ。肌色の抽選器にはうすいピンクの取っ手がついており、乳房のようにも見える。
これは、日本対がん協会や朝日新聞社、六本木ヒルズなどによる運営委員会が主催するピンクリボンフェスティバルが行った「第17回ピンクリボンデザイン大賞」で、“乳がんの正しい知識や早期発見の大切さを伝え、検診受診を呼びかける作品”を一般募集し、1071点の中から選ばれたグランプリ作品だ。
10月1日の「ピンクリボンデー」に入選作品が発表され、グランプリ作品は自治体や交通広告で活用された。翌年2月、病院でこのポスターを見たという人が「すごく腹ただしい気持ちになった」とTwitterに投稿したところから火が付き、患者などの当事者やジェンダー問題も巻き込んで拡散、同月21日には主催者の一つである日本対がん協会が謝罪した*。
乳がんを経験した当事者である筆者はこのポスターを見て、がんを福引きの「当たり」にするとはどういう神経なのか、すでに「当たり」を引いた患者は眼中にないのだろうかと憤った。ことさらに乳房を模したデザインも不快だった。
* https://www.pinkribbonfestival.jp/591/
当事者を傷つけず、かつ非当事者にいかに理解を深めてもらうか
32歳で罹患した私は40歳以降に推奨される乳がん検診の恩恵に与れなかった。経過観察が終わり検診対象者になってからは「受けない」という選択肢は考えられないので、「検診を受けよう」というキャンペーンが中心のピンクリボン活動に関心を寄せられないままに過ごしてきた。
そうは言っても、私は自分でしこりを見つけた乳がんをステージⅡで治療できたのでまだ幸運だった。だから、多くの人に検診を受けたりセルフチェックをしたりして早期発見・治療してもらいたい、「当たり」を引かずにいてもらいたいという気持ちは強くある。その点ではピンクリボン運動の趣旨には賛同する。
だが、その啓発ポスターが多くの女性の心を傷つけた。