M777を射撃するアメリカ海兵隊(写真:米インド太平洋軍オフィシャル)

東京ディズニーランドの半分以下の小島

 ロシア・ウクライナ紛争も3カ月が経過、ウクライナ東部・ドンバス地方では依然激しい攻防戦が繰り広げられているものの、開戦当初と比べれば戦線は全般的に膠着状態にあると言っていいだろう。

 こうした中、「ウクライナのゼレンスキー大統領は近くロシア軍が占拠中の蛇(スネーク)島の奪還に踏み切るのでは」との観測がなされている。

 ウクライナにとって外貨の稼ぎ頭である穀物、特に小麦の輸出ルートの回復は最重要課題で、それには島が脅威になること、またロシアとの停戦交渉を見越して、有利な立ち位置を確保しておくことの2点をゼレンスキー氏は考えているはず、という憶測である。加えて奪還を可能にする“新兵器”が欧米から続々と到着している点も見逃せない。

 ところで「蛇島」とは耳慣れないが、正式には「ズミイヌイ島」と呼び、れっきとしたウクライナ領である。同国最南端、ルーマニアとの国境をなすドナウ河の河口から東約35kmの沖に浮かび、面積0.18km2、周囲2km足らず、標高約40mの小島で、広さは東京ディズニーランド(約0.5km2)の半分以下だ。

「蛇島」と呼ばれるウクライナのズミイヌイ島(写真:AP/アフロ)

 一方ロシア側から見ると、2014年に一方的に占拠・併合したウクライナ領クリミア半島から180kmも離れている。とにかく補給ルートの確保が大変だろう。

 実はロシアが2022年2月24日にウクライナに全面侵攻した際に、真っ先に制圧したのがこの蛇島だった。ウクライナの黒海沿岸地域を素早く押さえて海との連絡を絶ち、ゼレンスキー政権を軍事・経済的に締め上げようと画策。その橋頭保(前進拠点)としてロシア側はこの島に目をつけたのである。

 当時島にはウクライナ国境警備隊員13名が駐留していたが、島に迫ったロシアの長距離対空ミサイル(SAM)搭載の巡洋艦「モスクワ」の降伏勧告に「くたばれ!」と一蹴、一時彼らは全員戦死との悲報が伝わるが、後に捕虜になるものの全員無事だった。この様子を描いた記念切手をウクライナが発行し世界の話題となっている。また、降伏を強いた「モスクワ」は同年4月、ウクライナ国産の地対艦ミサイル(SSM)「ネプチューン」の攻撃で撃沈されている。

降伏迫る露軍艦「モスクワ」に「くたばれ!」と拒否した蛇島のウクライナ守備隊の勇気を讃える記念切手(写真:ロイター/アフロ)

 島駐留のロシア軍の人数は不明だが、島の大きさや補給の困難さを勘案すると100人前後ではと推測される。すでに射程12kmのSA-15自走式短距離SAMを数基と防空用レーダーを配備したとの報道もあるが、一方でSA-15の何基かがすでにウクライナ軍の空爆で破壊されたと見られる。