ブログによる政策修正は理事会の総意

 2月の政策理事会では、APPの臨時増枠とその漸減見通し(現状:200億ユーロ→4月以降:400億ユーロ→7月以降:300億ユーロ→10月以降:200億ユーロ)が発表されていた。それが、4月の政策理事会では、「4月:400億ユーロ→5月:300億ユーロ→6月:200億ユーロ」と臨時増枠の規模が縮小され、7~9 月期中のAPP終了が示唆された。

 4月の段階では、10~12月期以降もAPP継続と謳っていたので、2月から4月にかけてギアが一段上がっている。そして、6月会合を待たずして5月、今回のブログでAPPの7月終了ばかりか、利上げも同月中に行い、9月もプラス金利に復帰することが宣言されている。

 6月会合はブログを追認する決定になるのだろう。要するに、2月、4月、6月(≒5月ブログ)と会合ごとに前回会合で決めた方針を変え続け、4月の方針に至っては公式会合ではなくブログで修正が図られている。

 上でも言及したが、今回のブログ騒動の背景に、メンバーの総意がなかったとは思えない。仮になければ、今後の政策運営に支障をきたすだろう。

 思い返されるのはドラギ時代の分裂だ。

 2019年6月、退任間近のドラギ前ECB総裁はポルトガルのシントラで開催されたECB年次総会の冒頭演説で、フォワードガイダンスの修正や利下げ、資産購入の再開の可能性を独断で示唆し、その後の緩和路線復帰への道筋を作った。この発言を端緒としてECBは同年10月、APP再開を決断することになる。

 これにドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、エストニアなど複数のメンバーが公然と反対を表明し、ドイツ出身のラウテンシュレーガー理事(当時)が任期半分以上を残して抗議辞任するという事態に発展した。

 ドラギ前総裁は機動性を重視し、多数決で局面を打開する反面、亀裂を厭わないところがあった(2014年11月には分裂を理由に政策理事会前に晩餐会が開催され、今後の運営方式が話し合われるということも報じられたことがある)。下馬評が決して高くなかったラガルド総裁が選ばれた背景には、こうした軋轢を生まずに政策運営する能力が買われたという声もあった。

 このような過去の経緯を踏まえる限り、今回の「ブログによる政策修正」は政策理事会の総意であり、本当にインフレへの危機感が高まっているということなのだと推測する。それはFRBが過去半年で見せてきた変節とも概ね被るものである。