この状況に困惑するのが、ロシアやウクライナに近く、食料供給基地としている中東やアフリカの諸国だ。両国に70%以上を依存する世界最大の小麦の輸入国であるエジプトでは、すでに輸入価格の高騰を受けてパンの価格統制に踏み切っている。
ウクライナ農業の生産性を引き上げた中国
穀倉地帯として肥沃な黒土を持つウクライナだが、そもそも小麦で世界第5位、トウモロコシで第4位の輸出大国にまでしたのは、中国だ。
中国は2012年にウクライナと農業開発プロジェクトを結んだ。中国がウクライナに対して融資した30億米ドルの返済にトウモロコシを中国に輸出するというものだが、中国の支援によるこのプロジェクトのお陰でウクライナの農業全体の生産性が高まった。
その翌年には国家主席に就任した習近平が中国の食料政策を転換させている。それまでは、1996年の世界食糧サミットで中国が世界に約束した「95%の食料自給率を維持する」としたことが国策でもあった。
それを習近平指導部は、人が直接食べるコメや小麦の主食用穀物と、トウモロコシや大豆などの飼料用穀物や油糧種子を明確に区分し、前者の「絶対的自給」と、後者の「基本的自給」という2つの方針を打ち出した。要するに、大豆、トウモロコシについては海外依存の方向性を明確に示したのだ。その土台作りのために目を付けた先がウクライナだった。
さらには、国家主席就任は既定路線だったことから、やはり2012年2月に「挨拶」「顔見せ」で訪米した習近平は、ワシントンで当時のオバマ大統領やバイデン副大統領と会談したあと、穀倉地帯のアイオワ州やカリフォルニア州を回り、かつてない大豆の大量買付の契約を結んで当地の農業関係者を喜ばせた。