大浴場が人気の「ドーミーイン」

(瀧澤信秋:ホテル評論家)

 ホテルの中で最も多いカテゴリーが“ビジネスホテル”だ。コロナで環境が激変したホテル業界であるが、コロナ禍直前のデータを参考にみると、ビジネスホテルは75万3961室(8416施設)とシティホテル19万1549室(1179施設)やリゾートホテル12万259室(1576施設)と比べても圧倒的な室数と施設数を誇る(日本全国ホテル展開状況2020年1月現在/HotelBank調べ)。

 コロナ禍をみてもビジネスホテルの新規開業は目立っているが、宿泊に特化することでスピーディーな開業、合理的な運営ができることもビジネスホテルの開業が際立ってきた理由である。この勢いは観光需要の回復とともに今後もますます続いていくだろう。

変わりゆく「ビジネスホテル」の形態

「ビジネスホテル」という表現を用いているが、実はこの表現に違和感を覚えるという事業者は多い。従来、ビジネスホテルは宿泊以外のサービスを排したホテルという意味合いを持ち、業界では“宿泊特化型ホテル”という呼称が定着してきた。

 また、ビジネスホテルには「機能性」「利便性」「簡易的」「リーズナブル」などといったイメージが強く、ビジネスホテルが登場した当初をみれば、駅前旅館の進化系としてまさに“ビジネス”ホテルというネーミングのとおり、出張族を主たるターゲットとしてきた。

 しかし、世界的な旅行ブームの広がりによって移動手段の多様化が注目され、特にLCC(格安航空会社)や高速バス網の充実など、リーズナブルな観光旅行というマーケットも広がりを見せてきた。そうしたリーズナブルな観光旅行の宿泊施設としてビジネスホテルも注目されてきた。そして、需要の高まりに呼応するようにビジネスホテルも付加価値を打ち出すケースが目立ってきたのである。

 無味乾燥としたビジネス利用のビジネスホテルから、滞在が楽しくなるような観光利用のビジネスホテルはその供給を増やし、サービス合戦が広がりをみせてきた。広々とした客室、高品質なベッド、充実した朝食、露天風呂やサウナまで設ける温泉大浴場などチェーンそれぞれの差別化にはじまり、独立系施設の奇抜でピンポイントなサービスなど滞在の充実度を高めてきた。

 こうした傾向の強まりは、宿泊に特化しているけれど「デザイン性の高いホテル」「コンセプト性の強い施設」というように、過去のビジネスホテルのイメージとは一線を画した宿泊特化型のホテルとして、いまや馴染み深くなっている。