皆さんが思っている以上に、日本のメーカーが造る自動車の進歩は停滞している。

 前回の「BMWアクティブハイブリッドX6」で実感した「ハイブリッド動力システムのハードウエアの進化と『マン=マシン・システム』としての最適化」も、それを明確に示す事例の1つだ。

 リーマン・ショックに始まる世界的な景気減退の中でも、海外の自動車産業は着実に歩を進めている。ひとり日本だけが沈滞の中で鬱々としていることで、自動車産業と自動車社会全体をリードすることで存在感を強めようとする欧州のトップランナーに対して、明らかに立ち遅れつつある。また、急速に形を整えて背後に迫る途上国・地域の自動車産業に対しては、アドバンテージを示せなくなる日が刻々と近づいている。

 何度も書いてきたように、携帯電話以上に自動車市場は「ガラパゴス化」している。その閉鎖環境の中にどっぷりと浸り続ける中で、自動車メーカーの中で働く人々、さらにはその進路を指し示すべき立場にある人々の目や耳、思考の感度が落ちている。

 つまり、自分たちが立ち向かっている世界の市場にどれほどの内容と能力を持つ競合製品が投入されているのか、それに続く次の世代に向けてどんな開発が進んでいるのか、その背景にあるビジョンはどんなものか、その中で自分たちの現況はどうなのか・・・といった基本的な分析と自己認識、それを踏まえた展望を組み立てることがなかなかできないまま、ただこれまでの流れの上で動き続けているのである。

 そうした中で、商品企画や販売計画は、市場動向を数字で確かめてから既存の実績に基づいて立案する。それでは「過去」に向けたビジネスしかできないのだが。そして、利益を確保するためには、すでにぎりぎりまで削り落としてきた納入コストをさらに落とすことをサプライヤーに求める。それを続けることで産業全体がただ疲弊してゆく。

 これが日本の自動車産業の今、リアルな実態なのである。

「新規開発」は言葉だけ、10年以上も基本設計が変わらない日本車

 景気が悪く、消費が低迷している時期こそ、「いつか必ずやって来る次のムーブメントに向けて、新しいものづくりの準備をすべきだ」というのが、ヨーロッパの自動車メーカー、そしてサプライヤーの考え方である。

 彼らがここ2~3年の間に新しい技術を実装して、性能や動質、品質の進化を実感させる基幹商品を投入してきているという事実は、リーマン・ショックの前から「次」を考えた技術開発に着手し、景気減退の中でも「新たなものづくり」を着々と進めていたことを意味する。

 ということは、それに続く次のトレンドと、そのための技術開発が今も水面下で進められている、と考えなければならない。

 日本の自動車産業にとっては、製品はもちろん技術開発全般において、彼らの「今」の製品をライバルと考えたり、比較のベンチマークとしていたのでは、「過去」と競い合うことにしかならない。現時点で開発を進めている技術や製品が世に出る時には、ライバルは次の世代に踏み出してくる、と考えて進むべきだ。それが過大評価だったとしても失うものはないのだから。