新A級棋士たちの順位戦1期目の成績は?

 新A級棋士がA級順位戦の1期目でどんな成績を収めたのか……。過去30年の記録を調べてみた。※棋士の肩書は当時。

 計40人の新A級棋士のうち、1期目で優勝して名人戦の挑戦者になったのは7人で、次の3人が名人を獲得した。

 1983年に谷川浩司八段(当時21)は加藤名人を4勝2敗で破り、現在も最年少記録の21歳2ヵ月で名人を獲得した。

 1994年に羽生善治棋聖(同23)は米長邦雄名人(同50)を4勝2敗で破り、名人を獲得した。

 2016年に佐藤天彦八段(同28)は羽生名人を4勝1敗で破り、名人を獲得した。

 ほかの4人の名人戦の勝敗は次のとおり。

 1995年に森下卓八段(同28)は羽生名人に1勝4敗で敗退。

 1996年に森内俊之八段(同25)は羽生名人に1勝4敗で敗退。

 2017年に稲葉陽八段(同28)は佐藤名人に2勝4敗で敗退。

 2021年に斎藤八段は渡辺名人に1勝4敗で敗退。

 A級順位戦の1期目に優勝した棋士の一方で、1期目にB級1組に降級した棋士は11人。

 2000年に郷田真隆八段(同28)は3勝6敗で降級。王位と棋聖のタイトルを獲得した実力者でも降級したところに、A級のレベルの高さがうかがえる。

 2005年に深浦康市八段(同33)は4勝5敗で降級。新A級棋士は順位が下位なので、4勝5敗で降級した例は時として生じる(同成績の場合は順位上位者を優先)。

 ちなみに、1993年に私こと田丸昇八段(同42)は2勝(1不戦勝)7敗で降級した。

9戦のうち7勝すれば、挑戦者争いに

 さて、藤井五冠は6月から始まるA級順位戦で、どんな成績を収めるだろうか……。

 A級にはトップ棋士や精鋭が在籍するが、藤井はすでに5つのタイトルを獲得していて、並みの新A級棋士ではない。最有力の優勝候補といえる。それは次のデータが物語っている。

 藤井がA級順位戦で対戦する棋士たちとの対戦成績は次のとおり。【藤井から見た勝敗。渡辺または斎藤は名人戦の敗者。以下はA級の新順位による。勝敗は4月15日時点】

 渡辺名人=12勝2敗。斎藤八段=4勝3敗。糸谷哲郎八段(33)=5勝0敗。佐藤天彦九段=3勝0敗。豊島将之九段(31)=14勝10敗。広瀬章人八段(35)=5勝1敗。永瀬拓矢王座(29)=7勝3敗。佐藤康光九段(52)=1勝0敗。菅井竜也八段(29)=5勝2敗。稲葉八段=4勝2敗。

 藤井五冠は上記の棋士たちにすべて勝ち越している。全体の通算成績は60勝23敗(.723)。

 A級順位戦で9戦のうち7勝すれば、挑戦者争いに加われるだろう(同成績の場合はプレーオフ)。

 まだ来年の話だが、藤井五冠が名人戦の挑戦者になり、時の名人との七番勝負を制すれば、前述の谷川九段の21歳2ヵ月を更新して、最年少記録の20歳11ヵ月ぐらいで名人を獲得することになる。

 そうなると、全冠制覇の「八冠」の可能性が現実味を帯びてくる。

 藤井五冠はA級昇級後の記者会見で、名人のタイトルについて質問されると、「名人という称号は、江戸時代から続くものなので、そういう重みがとても大きいと思います」と語った。