おじさんが「自分探し」する時代

「ネット上で顔が見えない同志が一緒に仕事をするのですから、発注する側も最初は信頼できる人間かどうかを見極めています。でも、きちんと仕事をすれば、相手も評価してくれるようになります。ただ、報酬を上げるには交渉が必須。黙っていても給料は上がりません」

 Eさんはその後、ほかの会社とも契約を結び、在宅でデータ入力や事務作業をこなしている。在宅で働く時間は1日あたり4時間程度、家事や本業の合間に行える点もメリットだ。
 
「こういう在宅ワークを発注するのは、小規模な会社や個人事業主が多く、たくさんの報酬を払ってくれない。会社が潰れるリスクも高いから、複数の仕事をキープしておくこと。とにかく最低半年はあきらめずにいろいろやってみることですね」

 ちなみに、長らくひきこもっていたEさんの娘さんは、プログラミングの専門学校に通い始めるようになったという。

「娘が独り立ちするまでは、仕事を選んでいられません。現在の報酬に納得できない部分もありますが、とにかく在宅で働けることをありがたいと思っています」

 さて、話をDさんに戻そう。

 依然として倉庫でバイトを続けているDさんは、最近、時給1600円の医療品を扱う倉庫のバイトに移ったそうだ。やはり夜の仕事だが、大手通販サイトの倉庫よりは肉体的に楽で、時給も高い。

「私も本当は在宅の副業がしたいんです。今後のためにちょっとずつでも、データ入力などの事務仕事をやってみようかなと思っています」

 Dさんにこれからの自分の理想のイメージを聞いてみた。

「できれば何か事業を起こせたらと考えています。それができなかったとしても、人に恵まれて、起業メンバーに入れたらいいなと。やりがいのあることに巡り合いたいし、巡り合わなければいけない」

 かなり漠然としていて、「起業」というキラキラしたイメージにとりつかれているように思える。まるで夢見る大学生と話しているようだ。いや、今の大学生ならさっさと起業しているか。

「とにかく自分探しをしなければいけないなと。僕らバブル世代は、ふざけて生きてきたんです。最初は恵まれていた。でも、自分に何ができるのかを考えてこなかったから、今、何もないんでしょうね……」

 中高年のおじさんから「自分探し」という言葉を聞く時代になろうとは。Dさんのフワっとした夢を応援したい反面、Dさんの試練は今後も続くなと思ってしまう春だった。