ウクライナ侵略の前日、ウクライナ国境付近に集められたロシア軍の戦車や車両(2月23日、写真:AP/アフロ)

素人は戦術を語り、プロは兵站を学ぶ

 ウクライナに侵攻したロシア軍は、これまでウクライナの強力な抵抗に遭い、深刻な打撃を受けて侵攻計画が予定通りに進展していない。

 その原因の一つに挙げられているのが、ロシア軍の兵站(後方支援)の不備・失敗である。

 報道によると、ロシア軍に対しては「水・食料や衣料が届かず、兵士の士気が低下」「燃料が不足し、戦車部隊の前進が遅滞」「弾薬が不足し、作戦遂行に重大な影響」などの指摘がなされている。

 兵站は、兵器類の整備修理、食料(含む水)・燃料・弾薬などの補給、そのための陸海空路を経由した輸送、戦闘傷病者の医療処置(衛生)などの任務を果たすことによって、戦力を維持増進し作戦を支援する機能である。

 兵站は、目覚ましい第一線の作戦・戦闘に比べれば、目立たない裏方の地味な活動であるが、その成否が作戦の結果を左右するものであり、極めて重大な役割を担っている。

 そこで、なぜロシアの兵站には不備があり、失敗と指摘されるのか、それを巡る諸要因を検証してみることとする。

 それが、日本をはじめ米国や台湾など中国の軍事的野望の脅威に晒されている国々にとって、中国との武力紛争に対する教訓や有効な対策を示唆することになるからである。

ロシアの兵站の不備・失敗の原因

1 兵站組織の構成

■外線作戦

 ロシア軍は、北、東(中央)、南の3方向から外線作戦的にウクライナに侵攻した。

 外線作戦の利点は、複数の作戦正面の相互の関係性を活用しながら、一つの正面で得られた戦果を他の正面に反映させることで作戦を主導することにある。

 しかし、北正面のキーウ(キエフ)から東(中央)正面のルハンスクまでの直距離は約690キロ、ルハンスクから南正面のセベストポリまでは約627キロ、セベストポリからキーウまでは約690キロあり、それぞれが東京から青森(約578キロ)以上に離れている。

 つまり、ロシア軍の作戦は、3正面の関係性を活用して成果を他に反映させるという外線作戦の利点を発揮することができず、各正面は、それぞれ独立した作戦を遂行している。

 そのため、ウクライナ侵攻における兵站も3正面ごとに独立した組織を作って運用せざるを得ず、侵攻軍全体の兵站支援能力は3正面に分散され、相互支援も不可能であることから、兵站支援に多大な負担を強いられている。