次期大統領の尹錫悦氏。だが、韓国の思想的分断は激しく、大統領就任後の道のりは険しい(写真:新華社/アフロ)

(立花 志音:在韓ライター)

 3月9日に行われた第20代大韓民国大統領選挙では、尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が当選した。 韓国に5年ぶりに保守政権が誕生する。しかし、その道のりは険しいものになるだろう。今回の投票結果を見ると、この国が思想的に真っ二つに分断されていることがよく分かる。

 尹錫悦氏が当選した後、革新政党の与党「共に民主党」の党員は急増している。特に、40代以下の女性の増加が顕著に見える。

 実際、ネット上で筆者が会員になっている「ママカフェ」の雰囲気もかなり変わってきた。

 子育てママたちの情報交換の場なので、基本的に政治の話題はNGだ。特に、文在寅政権の5年間は福祉問題などで政権の悪口などを言うと、注意が入っていた。

 ところが、政権が変わった今、 尹錫悦氏の悪口と文政権の終了を惜しむ声が並んでいる。韓国の女性は文政権の何がよかったのだろうか。考えても考えても理解できない。

 そして、我が家の長男は高校生になった。韓国は3月に進学進級を迎える。日本と比べても寒い冬が、終わらないうちに新学期が始まる。

 しかも、3月1日は「3.1節」といって、3.1独立運動(1919年3月1日に起きた日本からの独立運動)をたたえる記念日で祝日である。

 文在寅大統領は就任最初の年、2018年に独立運動の記念式典をソウル西大門前で行ったのち、独立門まで行進し、独立門の前で万歳三唱した。

 独立門とは、日清戦争で清に勝利した日本が、清の属国だった李氏朝鮮の独立を認めさせた記念に作られた門である。しかし、多くの韓国人は暗黒の日帝時代から韓国が独立した証だと思っている。

 文大統領のこのパフォーマンスにより、独立門の歴史を調べもせずに、独立の証だと当然の如く信じる若者がこの5年間で激増しただろう。

 この国では、3.1節が終わった3月2日から新学期が始まる。これほど効果的なプロパガンダはない。桜の季節にときめきながら新年度を迎えるシーンは、この国ではありえない世界観である。