深刻なパラノイア

 そして、プーチン氏のパラノイアの深刻さを測るには、この戦争の終わり方を想像してみるといい。

 火力はロシアの方がウクライナより上だ。ロシア軍は今もまだ、特に南部で進軍を続けている。首都キエフを制圧する可能性もある。

 だがそれでも、仮に戦争が数カ月間に及んだとしても、プーチン氏を勝者と見なすのは難しい。

 ロシアがウクライナに新しい政府を作ることに成功すると仮定してみよう。

 ウクライナ国民は侵略者に対して団結している。プーチン氏の傀儡政権は占領なしでは国を支配できないが、ロシアの資金力や兵員では、ウクライナの半分を占領することすらおぼつかない。

 米国陸軍のドクトリンによれば、反乱――ウクライナの場合は北大西洋条約機構(NATO)の後押しを受けた反乱になる――を抑え込むためには、人口1000人当たり20~25人の兵士が必要になる。

 ロシアには4人強しかいない。

 クレムリンは、プーチン氏がウクライナに傀儡政権を樹立しない(力不足で樹立できないため)というシグナルを発し始めたようにも思える。

 その場合、同氏はウクライナとの和平交渉で譲歩せざるを得なくなる。

 しかし、そのような合意がなされても、実行に移すのに苦労するだろう。とどのつまり、和平後のウクライナが再び西側にすり寄り始めたら、プーチン氏はどうするのか。また侵攻するのだろうか。

ロシアにもたらした破滅

 ウクライナを攻撃することでプーチン氏は壊滅的な失策を犯したという真実が、理解されつつある。

 まず、手強いとされたロシア軍の評判が崩れ去り、小規模で装備も劣るが士気の高い相手に対して、戦術的に劣ることを露呈した。

 ロシア側は大量の装備を失い、数千もの人的損害を出している。2週間で出した犠牲者は、米国が2003年の侵攻以来イラクで失った兵士の累計に迫る。

 プーチン氏は壊滅的な制裁を自国にもたらした。

 中央銀行は、自国の銀行システムを支えたり通貨ルーブルを安定させたりするのに必要なハードカレンシー(交換可能通貨)にアクセスできなくなった。