石油大手のシェルがドイツに建設した、カーボンニュートラルLNGを生成する液化天然ガスプラント(写真:AP/アフロ)

 脱炭素政策はいったん棚上げだ――。ロシアによるウクライナ進攻を巡り、そんな主張がくすぶっている。原油の需給をひっ迫させ、価格の高騰を招いている脱炭素政策は、この有事の中では中止せよ、という訴えだ。

 エネルギー大国・ロシアの軍事侵攻で世界が揺れる中、機運が高まっていた脱炭素の行方はどうなるのか。ポスト石油戦略研究所代表・エネルギーアナリストの大場紀章氏に話を聞いた(聞き手、河合達郎、フリーライター)。

──まずは、ロシアを巡る現状を確認します。エネルギー分野に関して、欧米諸国による対ロシア制裁の動きをどうとらえていますか。

大場紀章氏(以下、大場):軍事侵攻の直後は、エネルギーを標的にしないという態度だったのが、少しずつ変わってきたという状況です。

ソ連には効果的だった石油掘削機器の輸出規制、今回は・・・

 米国務省からは当初、「エネルギー供給に支障が出る形での制裁はない」という趣旨の発信がなされていました。その後、3月2日になって、エネルギーを標的に含む制裁が発表されました。その中身は金融制裁ではなく、石油掘削機器のロシアに対する輸出を規制するというものなんですね。将来的な設備更新に影響を与えようという狙いです。バイデン大統領からは同日、エネルギーの取引に対する制裁も「排除しない」という発言がありました。

 石油掘削機器の輸出規制という手法は、冷戦時代にレーガン政権がソ連に対してとった制裁と同じやり方です。ソ連が崩壊した理由についてはいろいろな分析がありますが、エネルギー業界ではよく、この禁輸策が効いたという見方がされています。つまり、ロシアの石油産業が設備更新できなくなり、生産量が急激に落ちて歳入が下がり、2年後くらいに崩壊したと、そういう見方です。今の米政権にその記憶があるのかないのかはわかりませんが、同じようなことをやろうとしているなという印象です。

 ただ、今回の禁輸措置は冷戦の時ほど効果はないだろうと、私は見ています。当時のソ連は米国の機材がないと石油の生産を続けることができませんでしたが、当然、その教訓を得ており、現在では、中国など制裁に参加しない国を含め、自前で機材調達できるサプライチェーンを構築しているからです。