もう一度、上部を見てみよう。2階から7階までは2次元曲面をセットバックさせることで球面に見せているが、8階の上部は実際に3次元曲面のようだ。これは型枠製作が相当大変だったろう。
見えない巨大球体──そう分かると調べずにいられない。そもそもこの建物は何という名前なのか。柱廊の上には「FRAGMENT MIB」とある。
本サイトの建築調査でよくお世話になっている賃貸事務所ドットコムを調べてみると……あった!
大晃第16ビル/フラグメントミッブビル。鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)、地上8階建て、竣工1988年4月(新耐震基準準拠)
賃貸事務所ドットコムは優れたサイトだが、建築設計者は書かれていない。このデザインのこだわりならば、当時の建築雑誌に載っているに違いない。
あった。『新建築』1989年10月号だ。私は1990年4月に日経アーキテクチュアに配属されたので、89年の新建築はリアルタイムで読んでいない。
フラグメント・ビルディング
設計:R.D.アーキテクツ、板屋リョク 伊原秀美(建築) 佐々木睦郎 構造計画研究所(構造) フジゴウ技術事務所(設備)
施工:古久根建設
敷地面積:81.0m2
建築面積:70.0m2
延床面積:467.8m2
階数:地下1階・地上8階・塔屋1階
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造
工期:1987年4月~1988年4月
構造設計者の佐々木睦郎氏は何度が取材したことがあるが、板屋リョク氏は面識がない。巻末の設計者プロフィルを見ると、「板屋リョク/1951年福岡生まれ、76年早稲田大学大学院修士課程修了後、鈴木恂(まこと)建築研究所、1985年R.D.アーキテクツ」とある。この打ち放しは、鈴木恂氏(1935年生まれ、早稲田大学名誉教授)仕込みか……と、ちょっと納得。
板屋氏は1999年に武蔵野美術大学映像学科教授となっている。そんな方を知らず大変失礼しました。でも、1951年生まれということは、このビルが竣工した1988年にはまだ37歳の駆け出し。当時の若手らしい「アーバンスモールビルへの挑戦」だったのだ。