中国での人気に火をつけた、羽生選手のある気遣い
ちなみにそもそも中国国内における爆発的な羽生人気の発火点となったのは、2017年3月29日から4月2日にかけてフィンランド・ヘルシンキで行われた世界フィギュアスケート選手権での表彰式の出来事とも言われている。男子シングルで優勝した羽生は2位の宇野昌磨、3位の中国・金博洋と並んでそれぞれ日の丸と中国国旗を両手に持って掲揚しようとしたところ、ふとあることに気付いた。金の掲げた中国国旗の表裏が逆になっており、それを親切心から本人に教えてあげただけでなく笑みを浮かべながら一緒に手伝って直してあげたのである。
これらシーンの一部始終が中継映像に映し出されていたことで、この微笑ましい美談は中国国内に瞬く間に拡散。「ユズは何て優しいんだ」「羽生は人格者」などとウェイボー上でも絶賛の声が広まり、500万単位のフォロワーを抱え込む大手メディアのスポーツアカウントやエンタメアカウントでも羽生はこの美談とともに神格化され、今もコンスタントにアップデートされた羽生情報が配信され続けているほどだ。
今から3カ月ほど前にも、日本の政府関係者を驚かせる動きがあった。
日本の羽生ファンが中国へ応援に行けないことを残念がりながらもSNS上で「中国のファンに応援を託そう」と数多くの呼びかけが上がったことに在日中国大使館も反応し「中国在住の日本人の方々、大会の日本人ボランティアの皆さんとともに、日本選手団をしっかり応援していきます」などとツイッターにつづった。これに中国共産党外交部の華春瑩(ホア・チュンイン)報道局長が在日中国大使館のツイートをシェアし、日本語で「羽生結弦選手のファンの皆さまへ。『現地応援は中国の皆さんに託す』との声を目にしました。お任せください!そして中国の新型コロナ対応へのご理解、ありがとう!」などと異例のツイートを発信した。
政府筋からは「華春瑩報道局長と言えば会見の席上において、むっつり顔を浮かべながら対日批判を口にすることで有名。そんな海千山千の人物による、まるで親日家を思わせるようなツイートは、それだけ中国国内における羽生人気、羽生パワーが凄いということを物語っている。中国共産党も『羽生結弦』の存在を大きくとらえている何よりの証拠だ」と大真面目な分析論まで出ている。