(英エコノミスト誌 2021年12月4日号)
混乱すれば経済政策立案者が試練に直面する。
中国の巨大電子商取引プラットフォーム、アリババ集団を立ち上げた馬雲(ジャック・マー)氏が自身初のウエブ企業の経営を始めたのは、1995年に米国を訪れた後のことだった。
ドキュメンタリー映画「アメリカン・ファクトリー」で有名になった福耀玻璃(フーヤオグラス)を率いる曹徳旺氏は、ミシガン州のフォード・モーター博物館を訪れた後に製造業に乗り出した。
(本人がインタビューで語った話によれば、博物館の重要性に気づいたのは帰りの飛行機に乗ってからのことで、再訪するための航空券をすぐに手配した)
旅行はイノベーションに欠かせない。残念なことに、ビジネスの世界に当てはまることはウイルスの世界にも当てはまる。
新型コロナウイルスは世界を旅する途中、どこかで自らを作り変えた。
「オミクロン型」と呼ばれる新しい変異ウイルスは今後、中国の厳しい出張制限をさらに揺るぎないものにする。
実際、国内総生産(GDP)が大きい国々のうち、オミクロン型による混乱が最も激しくなるのは中国経済かもしれない。
どこよりも広くウイルスが拡散するからではない。その逆だ。中国政府が感染拡大を食い止めようと、ものすごく頑張るからだ。
厳しいコロナ対策のツケ
中国で5月末以降に記録された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者は7728人。片や米国は1520万人だ。
しかし、移動と集会の制限は中国の方が厳しかった。アウトブレイク(集団感染)発生直後は特にそうだ(下図参照)。
新型コロナに対する「ゼロトレランス(不寛容)」方針では、外国との往来への寛容度も限られる。
外国からの訪問者には、指定のホテルで少なくとも14日間の隔離に耐えることを求める。データ調査会社のウィンドによれば、国境を越える中国本土市民の数は99%減った。
こうした制限のおかげで、以前の変異ウイルスの拡大には歯止めがかかった。