(英エコノミスト誌 2021年11月27日号)

米国の有名なベンチャー・キャピタルの多くはスタンフォード大学大学(写真)の脇を走るサンドヒル・ロード沿いにある

ベンチャー・キャピタル業界が巨大化している。良いことだ。

 ウラジーミル・レーニンは、小さな前衛部隊でも意志の力を持ってすれば世界の資本主義の仕組みを変えるべく歴史の力を利用できると考えていた。

 この見方は正しかった。しかし、革命家は、ひげをたくわえたボリシェビキの党員ではない。

 世界の機関投資家の運用資産合計に占める割合が2%弱に過ぎない、主に米国シリコンバレーに拠点を構える数千人の投資家たちだ。

 過去50年間で、このベンチャー・キャピタル(VC)業界が資金を出して事業化させたアイデアが世界のビジネスと経済のあり方を変えた。

 世界の時価総額10大企業のうち、7社はVCの出資を受けている。

 検索エンジン、「iPhone(アイフォーン)」、電気自動車、「メッセンジャーRNA(mRNA)」ワクチンを生み出した企業の背後にはVCマネーの存在があった。

資本主義の夢のマシン

 そして今、4500億ドルという過去に例のない規模の資金がVC業界に新たに流れ込むなか、資本主義のドリーム・マシン自体がスケールアップし、変身を遂げつつある。

 このようなベンチャーの世界の急加速は大きなリスクをもたらす。

 自負心が病的に強い創業者が投資された資金を利益が出る前に使い果たしてしまったり、大切な老後の蓄えが割高なスタートアップ企業の株式で浪費されたりする恐れが出てくる。

 だが、長期的にはVC業界がよりグローバルになったり、リスク資本がこれまでよりも幅広い業種に供給されるようになったり、普通の投資家でもVCを利用しやすくなったりする可能性もある。

 これまでよりも大きなアイデアの集まりを、これまでよりも大きな額の資金が追いかけるようになれば、競争が促される。

 それによってイノベーションが促され、よりダイナミックな形の資本主義が誕生する公算が大きい。

 VCのルーツは1960年代にさかのぼり、金融界ではずっと異端児的な存在だった。

 スーツ、洗練された趣味、ハンプトンズ(編集部注:ニューヨーク市ロングアイランド南岸に複数存在する「○○ハンプトン」という名前の地区の総称)の豪華マンションを好むウォール街とは対照的に、VC業界はフリース、オタクっぽさ、カリフォルニアの邸宅を好む。