(英エコノミスト誌 2021年11月27日号)

エルドアン大統領の存在自体がトルコの経済を危うくしている(11月5日撮影、写真:ロイター/アフロ)

エルドアン大統領は市場と交戦している。

 今月末まで、元看護師のエマさんが用意できる食べ物は具のないパスタだけだ。空腹のまま床に就くこともある。

「アンチョビすら買う余裕がないんです」

 中間層の人々が暮らすイスタンブールの町マルテペの野菜市場の外で彼女はそう教えてくれた。

 収入は月3000トルコリラ(約250ドル)の年金だけ。

 これで2人の息子と暮らしていかねばならない。電気代やガス代の支払いは遅れ、ローンの返済も滞っている。

 これはエマさんだけの話ではない。物価の高騰と通貨リラの急落のせいで、ほとんどのトルコ国民の貯蓄と所得が雀の涙になりつつある。

国民生活を直撃するリラ急落と物価高

 トルコの危機は制御不能になり始めている。

 直近の騒ぎが始まったのは、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が先日の利下げを擁護し、追加利下げがあるとの見通しを示し、経済成長を促すためにさらなる通貨安を目指すと示唆した後のことだ。

「為替レートの競争力が投資、生産、雇用の増加につながる」

 エルドアン氏は11月22日にそう語り、望みのものを翌日に手に入れた。動揺した投資家がリラの投げ売りを始めたのだ。

 リラ相場はものの数時間で15%という数年ぶりの大幅安を記録し、その翌日も若干反発するにとどまった。

 大都市イスタンブールや首都アンカラの一角では、小規模な抗議行動が勃発した。