中国人民解放軍が建国70周年軍事パレードで公開した中距離弾道ミサイル「東風17(DF-17)」(2019年10月1日、写真:新華社/アフロ)

 自衛隊が相手国のミサイル発射基地などをミサイルやロケットで攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有をめぐり、政府内で議論が高まっている。背景には、北朝鮮や中国、ロシアなどの日本を狙うミサイルの技術が大幅に向上し、従来のミサイル防衛システムでは対処できないようになってきた状況がある。元陸上自衛隊幕僚長の岩田清文氏に、自衛隊が敵基地攻撃能力を保有する必要性の有無と課題について語っていただいた。(前編/全2回)

(吉田 典史:ジャーナリスト)

防御できない極超音速滑空ミサイル

──この二十数年、日本は偵察衛星や海上自衛隊のイージス艦、航空自衛隊のPAC3を配備し、ミサイル防衛システムを整備してきましたが、これらでは北朝鮮や中国、ロシアのミサイルに十分には対処できないのでしょうか?

岩田清文氏(以降、敬称略) ええ、不十分なのです。ミサイルには様々な種類があるのですが、1つの兵器ですべてに対処できる時代ではありません。

 例えば弾道ミサイルの場合は、発射後、射程にもよりますが、高度数100~1000キロの宇宙空間に出て頂点に達したあたりでロケット噴射を止めます。その後は、放物線を描くように速いスピードで自然落下してきます。従って何分何秒後にこの付近に位置する、と予測することができます。それをまず、イージスシステム搭載艦で撃破し、できなかった場合はPAC3で迎撃するという2段階で対処します。

 例えば射程約1800キロの弾道ミサイルであれば、秒速4km程度(マッハ約11.8)で飛翔します。これに対しては日米共同で開発したSM-3ブロック2Aミサイルが、弾道計算された迎撃点に向け、高速でほぼ直進して撃破するのです。