(英エコノミスト誌 2021年11月13日号)

巨大な投資家の参入につれ、バリュエーションがとてつもなく高騰している。
暗号資産取引所FTXの香港オフィスは、ビジネスの方が人間の基本的欲求よりも優先される場所だ。
6枚のディスプレイ・パネルがセットされた各デスクの周りには、食べ物や強い酒が置かれている。
同社トップのサム・バンクマンフリード氏は、自分の睡眠時間は1日4時間で、デスクの隣にある柔らかいビーズクッションをベッド代わりにしているが、そうやって眠れるのも運が良ければの話だと語っている。
「デリバリーが営業中のレストランがどこか」を別にすると、朝食と夕食の区別もほとんどつかない。
ドットコム・ブームを思わせる熱気
バンクマンフリード氏が休めないのは、暗号資産市場が文字通り眠らないことの反映だ。だが、設立2年の同社が急成長を遂げていることの反映でもある。
FTXは先月、4億2000万ドルの資金調達を発表した。
今回の調達ラウンドでの会社のバリュエーション(価値評価額)は250億ドルで、つい3カ月前に投資家から付けられた180億ドルの価値を大きく上回った。
今回の資金調達には世界最大の資産運用会社ブラックロック、1700億ドルの規模を誇るカナダのオンタリオ州教職員年金基金(OTPP)、シンガポールの政府系ファンドであるテマセクなど、投資業界のそうそうたる面々が名を連ねた。

FTXの資金調達が大盛況になったのは、暗号資産スタートアップに対する投資意欲が高まっていることの表れだ。
ブロックチェーン・ベースの未来を構築する道具を作り出している企業への投資意欲は特に大きい。
暗号資産スタートアップが2021年1~9月期にベンチャーキャピタルから調達した資金は計150億ドル。2020年通期実績の5倍にのぼる。
2021年第3四半期には暗号資産業界のユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)が12社誕生し、最多記録を打ち立てた。