世界で最初に複式簿記が成立した時期と場所について、細かく見れば諸説があるようですが、一般的にはルネサンス期のイタリアで誕生したと考えられています。当時のイタリアは経済的先進地帯だったので、経済活動を記録し、売り上げや儲けの状態を把握する必要性が高まっていました。複式簿記が発明されたことでその課題が解決されることになりました。
その後、産業革命を経て、簿記を基礎に企業会計が発達していきます。産業革命の時代を経て、経済活動の規模が以前とは比べ物にならないほど大きくなってきたときに、会計に「減価償却」の概念が生み出されました。
企業活動の変化に応じて進化してきた会計
減価償却は、利益の平準化のために必要な概念です。
公認会計士で産業技術大学院大学客員教授である田中靖浩氏の『会計の世界史』(日本経済新聞出版社)によれば、19世紀初頭には減価償却の概念が明確化されたそうです。この時代には鉄道が発達した時代でしたが、鉄道事業は鉄道敷設や機関車の購入に多額の資金投下が必要になります。しかし多額の初期投資を全額、単年度の経費として計上してしまうと確実に赤字になります。出資者に配当することなどとても無理です。減価償却の概念を導入することで、固定資産への投資を、単年度ではなく、多年度にわたって平準化させることが可能となりました。これによって多額の費用がかかる事業の実行がぐっと容易になったのです。
19世紀末、アメリカで企業会計における重大な“発明”がもう一つなされました。「連結決算」です。アメリカではトラストが盛んになり、いくつもの企業を連結しなければ、複数の企業からなる企業連合の利益を正確に把握することはできなくなっていました。そこで連結決算が重視されるようになったのです。
複式簿記、減価償却、連結決算などのケースを見れば分かるように、その時々の企業活動の変化に応じて、企業会計の方法やツールは新しく生み出されたり変化したりしてきました。
そして現在も、新たな概念が急速に普及しつつある最中と言えます。「無形資産」です。