オンラインで開催された2021年イグノーベル賞授賞式でのマーク・エイブラハムズ氏。(画像:Improbable Researchより)

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 さて今年もイグノーベル賞の季節がめぐって参りました。

 2021年のイグノーベル賞は9月10日(日本時間)に発表され、思わずそんなばかなといいたくなる妙な研究や、実に真面目な歩行者の経路の論文や、ちょっとエッチな医学研究などなど、10件の研究(?)が受賞しています。例年通り、日本人も受賞していますが、ネコの研究もまた受賞しています。(ネコは意外に受賞頻度が高いです。)

 本記事では「日本人受賞者」に限らず、10件の受賞研究全てを、原論文にあたって紹介いたしましょう。ここまでやる解説はあまりありません。(筆者がなにせイグノーベル賞好きなもので。)

イグノーベル賞とは

「人々を笑わせ、それから考えさせる業績」に対して授与されるイグノーベル賞は、1991年、雑誌編集者で会社経営者(当時)のマーク・エイブラハムズ氏(1956-)によって創設されました。

「イグノーベル(Ig Nobel)」は「下品な」とか「不名誉な」を意味する「ignoble」と「ノーベル(Nobel)賞」をかけた駄洒落で、つまり「下品なノーベル賞」あるいは「不名誉なノーベル賞」を意味します。

 授賞式は昨年と同様にオンラインで開催されました。

たぶん「ニンゲン、もっと撫でるがよい」とか言ってる

イグノーベル生物学賞
受賞者:スザンナ・シェーツ(スウェーデン)
受賞理由:ネコのぐるぐる・ごろごろ・にゃおう・にゃあ(以下略)によるヒトとのコミュニケーションの分析*1

 イエネコが喉をぐるぐる鳴らすことは誰でも知っていますが、なぜ、どういう機構で鳴らしているのかは、ほとんど調べられていません。

 ライオン、トラ、ジャガーなど、多くのネコ科動物は喉を鳴らすことができません。ヒトに家畜化されたイエネコ特有のあのぐるぐる音・ごろごろ声は、ヒトとのコミュニケーション用に進化してきた可能性があります。

 この研究は、ネコの鳴き声、ぐるぐる音を録音して分析する楽しい試みです。

 なお、ネコ関連の研究はこれまで複数回イグノーベル賞を受賞しています。

 2017年にはネコの流体としての挙動を分析したエッセイに物理学賞が、2014年にはネコがヒトにもたらす悪影響を調べた研究に公衆衛生学賞が授与されるなどの先例があります。

 それに対してイヌ関連では、2008年に「ネコノミよりイヌノミの方が高くジャンプする」という発見が生物学賞を受賞しただけです。

 今後はイヌ派の研究者にも頑張ってもらいたいですね。

実験に協力したネコ。左からドンナ、ロッキー、ターボ。( Schötz, S. (2012). “A phonetic pilot study of vocalisations in three cats.” Proc. from FONETIK 2012, p45. Figure 6より許可を得て掲載*1

*1https://portal.research.lu.se/portal/files/5449443/3350432.pdf